コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- Re: .・。~涙色~.・。*-Namidairo-* ( No.5 )
- 日時: 2015/08/15 17:46
- 名前: 佳織* (ID: 1Enbe91p)
エピソード4:すれ違う想い。
*裕紀side*
久しぶりに近くで見た、 好きな女は。
今にも泣きそうな顔をしてた———。
■ □ ■ □ ■ □ ■
去っていく葵の背中を追いかけたい。
そんな衝動に駆られながらも
俺は、 ただ、 ただ——。
呆然と葵の後ろ姿を見つけるだけだった。
俺には、 アイツの背中を追いかける資格なんかないから。
「あのさぁ…裕紀が何考えてんのか、あたしには分かんないけどあの子の事……傷つけたら許さないから」
傍にいた、 幼馴染の明日香にそう言われて。
俺はムッとした顔で答えた。
「はぁ??……別に俺、何もしてねぇだろが。アイツが勝手に泣きそうな顔して走ってっただけだろ」
こんなひどいことを平然とした顔で言える、そんな自分に腹が立った。
本当はアイツが泣きそうになっている理由なんか分かってた。
分かっていた、 それなのに。
でも…駄目なんだ。
もう葵に優しくしてやれないんだよ、 俺は。
「じゃあ、最後に一言だけ言っておく。……今のアンタのままじゃあ、絶対に後で後悔するよ」
明日香は最後にそれだけ、言い残して。
俺から走り去っていった。
———『絶対に後で後悔するよ』
なぜか、 その言葉だけが。
俺の頭の中で何度も何度も、 反芻されていた。
「おーい、裕紀。いつまで待たせるんだよ」
「ああ…わりぃな」
待たせていた友達をすっかり忘れていた。
友達はと言えば屈託のない笑顔を俺に向けて言う。
「安心しろよ、 話を聞くとか野暮なまねはしてねーからさ」
「ああ、ありがとな。助かる」
そんな会話をしつつ、俺は教室へと足を運んだ。
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*明日香side*
「ったく、葵のやつ。どこに行ったんだか」
でも、無理もないか。
好きな人にあんな他人みたいな呼び方をされたら。
普通じゃいられない、よね。
そんな考えをめぐらせながら廊下を歩いていると。
窓の外をボーっと眺めている直樹の姿があった。
あたしは近寄って声をかける。
「あっ!!直樹」
あたしの声に気がついたみたいで直樹がこちらに視線を向けた。
「明日香か。どうしたんだよ」
「ねぇっ、葵見なかった??」
葵。
その名前に一瞬、直樹の肩が震えた。そんな気がした。
「……知らね」
素っ気なくそう言ってそっぽを向く直樹に。
あたしはカマをかける。
「葵となんかあった??」
「…………………」
これは、図星だな。
「何?告白でもしたわけ??」
「するかっ!!…でも、似たようなもんかもな」
「えっ!!じゃあ、やっぱり告白したわけ??」
「いっ…いやアレは告白とはいえね—な」
実は…と直樹が前置きを入れてこれまでの経緯を教えてくれた。
なるほど、ね。
傷つく葵を見ていられなくって直樹は俺が忘れさせてやろうかって口走ったわけか。
で、それを勘違いされて今に至る、と。
「まぁ、葵は鈍感だからね。ちゃんと好きだって言わないと」
「でも、好きっつってもなぁ…アイツはいまだに菅原のことが好きだしさ。フラれるのは目に見えてるわけだし」
辛そうにそう言う直樹の横顔に。
あたしは胸が締め付けられた。
たしかに裕紀のことを想う葵は苦しそうで見ていられないときはあたしにもある。
だけど。
そんな葵を想う、 直樹だって辛そうじゃんか。
「俺が葵を…幸せにしてやれればいいんだけどな」
「できるよ」
一言。そう言うと。
驚いたように直樹はあたしを見つめてきた。
「アンタのその思いだけがあれば、いつか葵も裕紀のこと。忘れられる時がくるんじゃない??」
葵の友達として。
本当は葵と裕紀を応援するべきだ。
でも、 それができないのは。
あたしにだって、 譲れない想いがあるからだ。
誰にも言ったことのないあたしの気持ち。
たぶん誰も知らない。
一番の親友の葵でさえも。
「そっかなぁ……明日香がそう言うなら諦めねーで頑張ってみるわ」
お互いに笑い合う。
直樹はありがとなと言いながら
あたしの頭を撫でて髪をクシャクシャにした。
「だーかーらー…むかしっから言ってるでしょ。髪がぐちゃぐちゃになるから撫でるなって」
「あはは…わりぃわりぃ」
沈んでいた直樹の顔がとたんに笑顔になって。
自然とあたしも笑顔になる。
幼なじみの関係が大きく変わってしまったけれど。
あたしの気持ちだけはあのころと何も変わらない。
昔も今も。
あたしは。
太陽みたいに、 暖かい笑顔の。
直樹のことが、 ずっとずっと…好きだよ———。