コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ

Re: 壊れた恋の羅針盤。【12歳冬】 ( No.3 )
日時: 2015/08/05 17:48
名前: ことり (ID: sGTz9jZf)


『本当はきたくなかったこんな街_____』


*



「お母さん、あとどのくらいでつく?」「30分、くらいかしら?」


ガタン


電車が急にゆれる。
ついつい手に持っているお茶をおとすところだった。


東京をでてから約5時間ほど。
バスや電車で乗り継いで、ここまで来た。



母と二人で。


父はいない。
いや『今はいない』というのが正確であろう。


父と母は離婚した。

原因は簡単。


父の浮気。


ようするに、父は私達を捨てたのだ。
そして乗り換えた。


それはまぎれもない真実であり、あっけなくすぎさっていった出来事だった。


そう、まさに電車を乗り換えるのと同然のように父は私達を捨てた。


それは、私にしては一瞬の出来事のようであり、そして父はいつの間にか、いなくなった。




その出来事が今、母の実家へとむかっている訳とつながる。

つまり、私達は引っ越す。

東京から遠く離れた街に。
母の実家に。





_____まもなく終点です。多岐、多岐_____

車内アナウンスがながれる
野太い男の人の声。



「さ、麻里おりるよ」「うん」
母の声とともに座席をたつ。




ここから、私の12の冬は始まった。

Re: 壊れた恋の羅針盤。【12歳冬】 ( No.4 )
日時: 2015/08/09 00:58
名前: ことり ◆E09mQJ4Ms. (ID: sGTz9jZf)

そこから10分くらい歩いたところに祖母の家があった。



祖母は祖父と2人暮らしと聞いている。

にしては、結構でかい家だな。
和風っぽい外観に、庭もある。

もっと、すさんだ生活を予想してた。って失礼か。



実のところを言うと、私は祖母と会ったことがない。

いや、会ったことがないわけではないのだが、なんというか。
祖母は私が生まれてすぐのときに一度見に来ただけで、そこからは一度も。

つまり、記憶にない。



だから、ほぼ初めまして状態。


何で祖母は母に会いに来ないのか、何で母は実家に一度も帰らないのか。


そんな疑問はあるのだが、母に聞くと「仲良くないだけよ」と答える。

はたして、実際のことは知らない。






「だから、いったがね。あんな東京もんと結婚しても幸せにはなりゃせんて」






隣の部屋から祖母_おばあちゃんの声が聞こえる。


さっき、ここについたばかりだっていうのにおばあちゃんはお母さんを隣の部屋へ連れだして、お説教をはじめた。






*







しばらくたったころだった。



「麻里にそう言ってくる」



祖母と母のいるその部屋から、なんとなくそんな声が聞こえた。

なんだろう。



耳をすまして聞いていると隣の部屋の戸があいた。

そこからでてきた母は、悲しい目をしていた。




「麻里、ちょっと外で遊んでな」



はぁ、お説教はまだまだ続くってことか。

どうやら、おばあちゃんは母の結婚に反対してたようだ。


"「だから、いったがね。あんな東京もんと結婚しても幸せにはなりゃせんて」"

その言葉が耳のなかで繰り返される。

幸せ・・・

母は、父といると、幸せそうに笑っていた。
でも、それが一時でおわると知ったとき_わかったときは、絶望的な目をしていたのを覚えている。

それは"幸せだった"という、過去形にすぎないのだろうか。

"幸せになれなかった”というその事実しか残らないのだろうか。





「うん」


ともかく、これ以上、母に迷惑はかけれない。

素直に私は首を縦にふった。



けど、こんな雪がふってるこの街で。
本屋の一軒もないこの街で。
知ってる人のいないこの街で。





私になにをしろと?



Re: 壊れた恋の羅針盤。【12歳冬】 ( No.5 )
日時: 2015/08/09 11:23
名前: ことり ◆E09mQJ4Ms. (ID: sGTz9jZf)



「いってきまーす」


元気よく言ってみるが、誰も応答しない。

当たり前といえば当たり前なんだけど。




はぁ、外へでたくない。かといって、家にいるのも嫌。

おばあちゃんに罵声をあびせられてるお母さんを傍観しかできない私は、自分で自分に腹をたてていた。


しゃーない、行くか。






ガラガラ






そんな音をたてて戸は開いた。

まるで「さっさといけ」とでも言うかのように。



はぁ、行きたくない。



そんな重い足を動かそうとしたときだった。


いや、その一歩を踏み出すのと同じときだったかもしれない。









ガッシャン











大きな物音が家の中から聞こえた。




「何?!」


お母さんに何かあったら、そう思うと身震いが止まらなくなる。



私は閉めたばかりの戸を勢いよく開け、母と祖母のいる部屋へ向かった。


「お母さん?!」


その部屋の戸を勢いよく開け、中を見渡す。


そこには、ガラスの破片とそれをはいつくばって拾う母、その様子を眺めている祖母の姿があった。


「何これ・・・・」

わたしもまた、それを眺めることしかできなかった。

ひどい。


そう思いながらも傍観することしかできない私は、また自分で自分に腹がたつ。



そこにかがむ母の姿は、小さく儚いものと化した。

まるで、繊細な消え入るような生き物のように。




「麻里・・・」


また、その母の小さな震えた声が母を余計弱々しく引き立たせる。


「外へいってらっしゃい」


でも、その声は優しく、強い声だった。



「嫌だ、行きたくない」


自分でも口に出して、びっくりした。

これが本心なのか、それとも虚偽の言葉なのか、わたしはもう分からない。

母の盾となりたい、このままほっとけない。でも、これ以上惨めな母の姿を見たくない。


二つの気持ちが矛盾していて、でも、両方が本心で。


「行きなさい、麻里」


だから、母の力強い声を聞いて。


「嫌、だ」


もう一度、こう言ってみた。

母にこれ以上、惨めな思いをしてほしくない。


心から、そう思う。










けど、その思いはトドカナカッタンだ。









「麻里!行きなさい!」








もう、黙ることしかできなかった。

黙って逃げることしか。





玄関の戸をさっきより勢いよく開ける。


無我夢中で走った。



"麻里!行きなさい!"



これは母の本心なのだろうか、偽りの気持ちなのだろうか。






ワタシニハワカラナイ。

Re: 壊れた恋の羅針盤。【12歳冬】 ( No.6 )
日時: 2015/08/17 13:02
名前: ことり ◆E09mQJ4Ms. (ID: sGTz9jZf)

どのくらいたったろうか、家をとびだしてから。

自問自答を繰り返す。

携帯なんて類いのものは私はもってない、ましてやスマホなんてもっとも。
いや、もってないというのは現在形であって、もっていた、という過去形となる。


つまり現在もっていないのだから時間も確認できない。

携帯は、お父さんとお母さんが離婚するちょっと前くらいに解約した。


別に未練も後悔もない、


携帯に関しては。







ただ、ただ離婚だけはしてほしくなかった。


離婚だけは。




*



あれは去年の冬だったと思う。


クリスマスの日。


どこの家庭もクリスマスパーティーなんていうしゃれた名前でごちそうを食べる日、そして愛のある家庭の子供はプレゼントをもらえる日である。


もちろん、私の家もケーキやチキンを用意して、サンタさんからのプレゼントを楽しみにしていた。








そんなとき、家の電話のコール音がなった。




____pipipipipipipipipi





嫌な予感はしていた。



そして、その予感は的中することとなる。





「麻里、お父さんね、雪で電車が動かなくてすこし遅れるって。
 先にご飯食べておいてってさ」




このとき、あーあ。とは思った。
この後のことを知らずとして。


でも、子供にとってクリスマスとは一大イベントなのだ。

そう簡単に家族バラバラで過ごすのをあきらめるわけにはいかない。




「ねぇ、お母さん。お父さんを駅までむかえにいこうよ!」

「う〜ん...それもそうね、お父さんには内緒で行ってお父さんを驚かせちゃいましょ!」

「うん!」



私が。


私がこのときこんなことを言ってなかったら。
            言わなかったら。


そのまま家にいたら。
扉を開けなければ。
        
            私は。
            私達は。

 


     壊れていなかったのだろうか。分からない。















でも、


もしかしたら、




お母さんはこのときすでにお父さんの浮気に気づいていたかもしれない。