コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- Re: *家出神さんと、男子美術部。 ( No.4 )
- 日時: 2016/03/23 11:16
- 名前: miru (ID: .pUthb6u)
#2
「ねぇ、お聞きになりました? 今年の春は、特待生がこの学園に来るそうですわ」
「まぁなんと……珍しいですわね! とても優秀な方なのでしょう。けれど……特待生とは、庶民ですわよね。お金に困っていらっしゃるのかしら……」
「そうですわねぇ……。それが、全くの庶民というわけではないという噂もあるのですわ」
「でも、あの土地の出だと聞きましたわ。あの村の出身であるなら、なんであろうとご身分はあまりよろしくないのではと思いますわ」
「あぁ、少し前にもいらっしゃったわね、あの村の出身の方が。もう、戻っていったそうではありますが……」
「そうでしたわね……。今度の方も、同じこととなるのでしょうか……」
まだ肌寒さを感じる、春も間近のティールーム。
暇を持て余す少女たちは仲間で集い、午後の紅茶をお菓子とともに愉しんでいた。
もっとも、そんな暇があり、そのティールームを使えるのは、ごく一部の特別な生徒だけだが。
そんな噂話が大好きな彼女たちの会話の中身は、大抵たわいもないものである。もしくはどうでもいいようなことである。
最近のネタは、もっぱら特待生のこと。
お嬢様である彼女たちの中では、庶民の話はちょっとした刺激であり、話をすることは好まれていたのだ。
そして最後は、庶民なんて……オーホッホッホ……で締めくくるのである。
その高笑いを聞いた一般の生徒は、恐ろしさに震え上がるのだ。
まさに今、高笑いに震え上がったひとりの生徒は、足早にその場を過ぎ去った。くわばらくわばら……。
特待生かぁ、と漏らしたその生徒は複雑な顔で宙を見た。
……大丈夫かなぁ……。
高笑いが響き渡っていたその頃、和泉は双子のチンピラに絡まれていた。in天立村。
「ねー和泉。ちょっと調子乗ってんじゃない? 俺らになんにも言わず、どーしたらそんなことができるのかな」
「僕たちだって、和泉に強制してる訳じゃないんだよ? え、ほんとほんとー。でも今回はちょっと許せないよねー」
双子に挟まれて、身動きの取れない和泉は、目だけを動かし面倒臭そうに明後日の方を見る。
「君たちには、そんな関係ないことだよ。なんでそう突っかかってくるかな。別に僕がどこの高校に行こうと別に……」
「あのねー、なんであのエスカレーター式の中学入っといて、高校になったら違うとこ行ってんのさ。まぁ、そこまでならいいけど、入ったのはあそこでしょ!」
そう言って、双子の片割れ、水城は、バッと少し先の大きな学院を指さした。
先程の言葉に語弊があったようだ。
和泉は、近所の双子に過保護な心配をされていた。in星下荘。
「去年、和泉急に村に戻ってきたなーって思ってたけど、このためだったワケ……」
「あそこはフツーの学校とはワケが違うんだから、なーんか俺たちに言ってからでもよかったじゃん? まー、言われても止めるけど」
はぁあとふたり揃ってため息をつき、手を広げて首を振った。
ソックリ、と和泉はププッと思う。
「あーんな学校なのに、特待ですんなり入ってっちゃうのは、和泉らしいよねェー……」
3人の目線の先、私立秋桜院学園/しゅうおういん学園は、天立村というド田舎にある、言わずと知れた全国屈指の超お金持ち学校である。
「普通の常識の通じないトコロだよ? しかも和泉そんな見た目じゃいじめられんの、目に見えてるじゃん」
「ねぇ、あの、けなしてません? 外見とかどうしようもないよね? え、ちょっと悲しくなるんだけど……」
「そうだよねェ。和泉、見た目ナヨいし。パシられたり、いいように使われるんじゃん?」
「聞いてないよね」
和泉をけなしまくる双子に、和泉は笑顔に怒をにじませて言った。
「……それに。あそこには、変な伝説という名の伝統もあるわけだしサ」
「あー……。まー、この地域一帯の伝説でもあるよね。山の神様がいる、っていう。でもそんなファンタジーより、現実的な方が心配なんだけど」
「え、信じてないの? でもさ、和泉は意外とアテられやすい体質だから……」
どーたらこーたらうんぬんかんぬん。長い会話に、全く興味のない和泉にはそう聞こえた。
どうして、この双子がこんなに自分にかまってくるのか和泉にはわからなかったが、とりあえず今は、ふたりがウザかった。いつも一緒にいてくれるふたりだから、と入学のことを話したのがそもそもの間違いだったと和泉は後悔した。
そう思ったとき、ふいにこの間聞いた言葉が思い出された。
中学の親友の言葉。少し心が冷たくなる。
「まさか、君が行ってしまうなんて思わなかったな……一言相談くらい、してくれても良かったんだよ?」
全く君はいつも人を頼らないんだから、と言って、なぜか困ったように笑った。
その言葉と、水城たちの言葉が重なって聞こえる。
和泉は懲りずに時間潰しを試みてみた。瞳をクリクリ動かす。
ふと、一匹の蝶々が視界に入る。純白の羽を音がしそうなほど不恰好に振る、小さな蝶だった。
仲間も、花もない、まだ春前なのに……。
早生まれの蝶は、まだ開かない花の蕾の周りを舞っている。
和泉は、蝶を見たことを喜ぶべきなのか、蝶の運命を想い、悲しむべきなのか、わからなかった。
その時、和泉は同じものを見つめる視線を見つけた。
ハッとしてその方を見ると、一匹の猫。うわっ、ふわふわだぁ。
じぃっと見つめると、猫も緩やかな弧を描いてこちらを見る。あらやだ……キレイな瞳。
暇なので、和泉は勝手にどちらが長く目を合わせていられるか、と瞬きもせずやった。猫と。
猫の不審者を見る目つきにもめげズ気圧されズ。
「和泉、聞いてないよねー?」
あ、バレた。
双子に呆れられ、ソックリにやれやれと首を振るふたりを和泉がププッと思うのは、天立村の星下荘にて。