コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- Re: *家出神さんと、男子美術部。 ( No.17 )
- 日時: 2015/08/14 13:19
- 名前: miru (ID: 8AM/ywGU)
#6
「……へ、うそ……」
和泉は今、自分の部屋にいた。
手に持っているものをバッと広げてみる。
それは秋桜の制服だった。新調されたものらしく、とてもきれいだ。ただ新しいからというだけでなく、生地の光沢感が尋常じゃないので、とっても高級な服であることがわかる。
差出人をもう一度確認する。ちゃんと父からだ。
あの父が、こんな高い制服を。一着数十万円はするのに……。
「なんのつもりだろう……」
餞別かなぁ。あんな、勢いで家を出てきてしまったのに? あんな、言い争いをしてしまったのに?
父から何か送られてくること自体、信じられなかったのに、こんな高いものを。
広げた制服は男物だった。
がんばれ、と応援してくれているなら、嬉しい。そんな訳はないけれど。
「きゃー! 和泉ちゃん、似合ってるわっ! 男前っ!」
今日はついに入学式。
いつもよりもテンションの高い清子さんを前に、和泉は複雑な心境だった。男物が似合うと言われて喜ぶ女はなかなかいない。
「というか。顔見えてないんだから、男前もなにもないでしょ。ほんっと重い前髪だよねー」
水城にそう言われ、その言い方に和泉は、ん? と違和感を感じた。でもそういえば確かに。
「いいのよっ、雰囲気が格好いいでしょ!」
清子さん、フォローになってないです。制服は格好いいですね、確かに。
どうせ制服を作るなら、お金持ちから文句が出ないようになるべく格好よく、なるべく可愛くした結果、という感じがする。自分でカスタムできる部分もあるし。
で、高くなっちゃったわけだ。
あぁ、金持ちは高額であることすらプラスポイントと考えるのか……。
「というか。なんで男物なのさ? お父さん、性別もわかってないの?」
樹にそう言われ和泉はまた、んん? と眉根を寄せた。でもそういえば確かに。
ではなくて。
「今日から男ですから。よろしく」
「そうなの。和泉ちゃん、今日から和泉くんなの」
前から清子さんには言っておいたので、面白そうに清子さんはくふふっと笑った。
は? という顔をする彼らを無視し、和泉は疑問に感じたことをぶつける。
「ねぇなんで、今日そんなつんけんしてんの?」
その言葉に双子は少しハッとして和泉を見るが、すぐにふっと視線を逸らして、ぶすっとした。
あー、なんかあったんだな。喧嘩か。
和泉はなんとなく察したけれど、面倒臭いので首を突っ込まない。
「じゃあ行ってきます」
「行ってらっしゃい、和泉ちゃんじゃなかった和泉くん」
清子さんこんな空気でも楽しんでるな。
「学校なんて、行かなくったっていいんじゃない? しかも男装してくんでしょ? 似合ってないし」
水城がボソッと言う。なんかイヤな感じだ。
ムッとした和泉は返事をせずに星下荘を出た。
今日は、新人の方が出て行ったのが早かったようだった。いつも起きるの遅いのに。
ツイてない。
けれど、今日までソワソワしていた新人を見ていれば、なんとなくわかる。
楽しみにしてたんだろうな……。
登校時間、負けたのは悔しいけれど。
程なくして、秋桜院学園につく。ここは裏門にあたる南門だ。うん、裏門といっても十分立派だ。
覆い被さるように大きな桜の木が、門の横から生えている。前回来た時は、固い花芽だった桜の枝。今は、ゆさゆさと満開の花をつけ、そよ風に大枝を揺らしている。
今日は入学式だから、正門から入った方がいいのだろうか。
あ、入学式の案内の看板が見える。ここから入っても良さそうだ。
「高等科一年生の皆様はこちらです──……」
少し歩くと、案内の声も聞こえてきた。
正門の方から、ぞろぞろと華やかな雰囲気の生徒たちが流れてくるのを見て、和泉はぎょっとする。
なるほど、正門からくる金持ちの相手で、だから村からしか人がこない裏門は手薄なんだな。……格差社会……。
案内の黒い服を着た男の人が、たくさんの入学生を先導していた。和泉もそれに続く。
いよいよ入学だ。
和泉は早鐘を打つ心臓をおさえて、桜の舞い散る中、会場へと踏み込んだ。いざ出陣。
和泉のその胸の中は、家族を想ってキュッと縮んだ。
父さん、あなたの言う通り、3年間過ごしてみせます。家も出てきた以上、これから頑張りますね。
母さん、兄さん、どうか見守っていてくださいね。
それは男を『演じて』過ごさなければならない、3年間の始まり始まり。