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Re: *家出神さんと、男子美術部。 ( No.20 )
日時: 2015/08/19 08:38
名前: miru (ID: .pUthb6u)

#1


「はぁ〜……疲れたぁ〜」

立派で華やかな入学式を無事に終え、クラス発表も終えた和泉は、ぐったりと机に伏せた。
入学式は豪華すぎて目が眩んだ。
唯一覚えているのは理事長の姿で、素とのギャップに首をかしげた。キラキラおメメの乙女理事長が、壇上ではイケメン低音ヴォイスの頼れるオジサマになっていた。むむむ……。

そして先ほどクラス発表があり、学園の説明も終わった今、和泉はぐったりとしていた。

すると、ななめ後ろから視線を感じる。

「和泉さん、よろしくね……」

新人の声がした。

「……うん」
「同じクラスだね。……1年B組って呼ばれて驚いた」
「自分もだよ」

顔を上げて、新人の方に向き直ると、引きつった笑顔で和泉は言った。

まさか同じクラスになるとは思ってなかった……!
6組もある中、同じクラスになる確率なんて、ものすごく低いはずなのに!

なってしまったものは仕様がない。
早々に諦めて、気持ちを切り替えた和泉は、よろしくね、と今度は本当に笑顔をつくった。

「あの方が特待生ですの?」
「あら、いかにも、という感じがいたしますわ」
「確かに庶民らしさが拭えませんわね。それにあの前髪……」
「男のくせに長いだなんて、不潔ですわ。暗い方ですのね」
「皆さまお口が過ぎましてよ、特に芹乃さま。気にかけることではありませんわ。行きましょう」
「失礼いたしました、麗亜さま……つい」
「いいえ。……そんなことより、皆さま。今年も同じクラスになることができ、大変喜ばしい限りです。これからもよろしくお願いいたしますね────」

……なんだかとても怖い会話が聞こえた。
華やかな女子生徒たちが、足音高らかに教室から出て行く。彼女たちの前方では、人がサッと割れ、行く手を阻むものはない。
……どなただろう。絶対近づかないでおこう……。

千歳も彼女たちを目で追っていたが、やがてその目を鬱陶しそうに細めた。

「騒がしい人は、好きじゃない……」
「自分もだよ……」

やっぱり、自分のような人間は、目につくんだろうなぁ……。




今日は入学式とクラス発表でほぼ終わりなので、だんだんと生徒が帰り始めた。

和泉も特に用事はないので、帰ることにした。
一緒に帰ろうと新人に言われるんじゃないかとビクビクしていた和泉だったが、実際はそんなこともなく、スタスタと千歳は教室を出て行った。
和泉は少し恥ずかしくなった。

俯いた和泉は、ふと視線の先に、可愛いネコの飾りがついた小さなピン留めを見つけた。
ピン留めを拾った和泉は、よくよく見ると、普通の雑貨屋さんで売っていそうな、安めのピン留めのようだと気づいた。

「誰のものだろう……」

こちらを見つめるネコの眼は、クリクリとしていて実に可愛らしい。仲良くなれそうだな、この持ち主の子……。
早く持ち主に返してあげたい。和泉はすぐに辺りを見回したが、これをつけていそうな女子は見当たらなかった。
また明日探そう、と和泉はピン留めを鞄のポケットに刺した。



教室を後にし、和泉は校門までを歩く。
誰もいない、満開の桜の散りはじめた静かな石畳み。

すごくいい。

ゆびでフレームを作って、景色を切り取る。そのまま写真に収めたいなぁ、と和泉は思った。
好きな景色を見つけて、気分のちょっと上がる和泉はこれからの学園生活が楽しみになった。

心がウキウキしていると、自然と好奇心に溢れて、いろいろなモノが目につく。
桜の陰から、桜の大樹をこえるほど大きな、黒い塔がそびえ立っているのが見えた。
そして和泉はその下の方へ視線を移すと、塔から石畳みへ、小さな細道がのびているのに気がついた。

うぅ……。

和泉の好奇心がこちょこちょとくすぐられる。




和泉が珍しく、道草するのは塔への一本道。