コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- Re: *家出神さんと、男子美術部。 ( No.27 )
- 日時: 2015/08/30 21:34
- 名前: miru* (ID: .pUthb6u)
#4
一体どこから現れたのか。
狐の顔が、こちらを見下ろす。
狐を見上げた和泉は、不気味な塔に立つ狐と目が合う。
「君は、だれかな?」
え、喋った。
「なぜここへ?」
ここで和泉は気がついた。
あの顔は、狐のお面だ。あれは人だ。
「なぜ何も言わぬのだ?」
和泉はさらに気がついた。
あれって狐コスして不気味な塔にいる危ない男の人だよね。
『怯えられてるんじゃない? 』
『ええっうそ!? ああ、それは大変だ……喋り方を変えればよいのか?』
『いいんじゃないかな?笑』
風に乗って何か喋っているのが聞こえる。一体何を……。
もう逃げようか。不審者と喋ってはいけないと、母さんにも教えられた。
見知らぬ男は言った。
「……あ! もしかして、入部希望かにゃー?」
「違います」
びっくりした! お前、イヌ科のくせに猫語を使うのか。
あの喋り方……全身にぶわわわわっと鳥肌がたった。き、きも……。
入部、という言葉に即否定の言葉を入れる。
部活? この男は部活でここにいるのだろうか。
いやいや、口実に違いない。
あんな怪しい男が、ちゃんとした理由でこんなところにいるわけがない。制服も着ていないし。
最初は否定したが、もしかしたら危ない人たちの溜まり場であっているのかもしれない。
目を輝かせるように聞いてきた男は、即座に返ってきた言葉にしゅんとした。尻尾はないが、垂れる尻尾が見えるようだ。
ええー。わかりやすさに和泉は引いた。本当に部活なのだろうか。
背丈はあるが、中身は案外子どもっぽいのかもしれない。
「…………」
一方的に話しかけられ、 一方的に落ち込まれて、反応に困る。何も悪いことはしていないのに、沈黙が気まずい。
「……そういうことで。失礼します」
これ以上居ても、何もいいことはない。よくないことしかおきない。そう考えた和泉は、少し焦って、急いで帰ることした。
そんな和泉を見て狐はふっと笑うと、腕を組みかえて前かがみに手すりに寄りかかった。
「そうか、残念だな。君は部活に入りたくないのかな?
気になったらまた来るといいよ。
……それじゃあね、迷える゛特待生くん″」
「え……なぜ知って……」
和泉は狐を振り返った。狐の面は、笑っているように見えた。
『わ、何恥ずかしいセリフ吐いてるの?』
『わーうるさいなぁ! もう! つい! ついだよ、もう!………』
そのとき、また海のほうから風が吹き上がってきた。
ばばばばっと耳元で音がする。強……。
和泉が再び目を開けたとき、狐はもういなかった。足場に風が集まって、くるくると回っている。
なんだったんだ。
和泉は虚空をぽーっと見つめた。
不快な汗が滑り落ちた背中で身震いし、さっきの出来事を整理する。
脳内結果は、整理不可能だった。
ほわーっと和泉は晴れ渡る天を見上げる。
今日も快晴だ……。
「なんだか、変なことがあった気がする」
和泉は首をかしげた。
そしてぐるぐると鳴ったお腹に、全意識がそちらに向く。
今日のご飯は、なにかな。