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第一章 涙が出なかった少女の話 ( No.25 )
日時: 2016/01/09 19:43
名前: のれり (ID: R4l9RSpR)

「ふぅー……まぁ、冗談は置いといて」

レイはグッと目を細めました。

「愛華。僕と一緒に、外の世界に行かない?」
「うぁ……うっん……あぃ……?」

外の……世界……?

「ハハ、そう。外の世界。愛華、まだ言葉を話せないでしょ?この部屋に閉じこもってるより、外に出たほうが、たくさん言葉を聞けて、勉強になるよ」

たしかに、このままちゃんと声を出せず、レイにずっと笑われるのはごめんです。私は、コクリとうなずきました。

「じゃ、行こうか」

レイは、チリチリとなる首輪をひっかき始めました。
何をしているのでしょう?レイの爪は首輪の繊維を傷つけ始め、ボロボロと首輪の一部であったものが落ちていきます。

「うぁ~、う、あうあ~」

私の声に、レイが気づきました。

「ん?なぁに?愛華。……あぁ、コレ?」

レイはひっかくのをやめました。
もう、ずいぶんとボロボロです。

「もう、要らないからね。愛華と一緒に、この家を出るんだから。ノラでいなきゃじゃん?」

レイは口角を少し上げ、またひっかはじめました。


いいのでしょうか……

いいのでしょうか?

レイがいなくなったら、お父さんとお母さんは悲しむんじゃないでしょうか?

いいのでしょうか?

悲しませて、いいのでしょうか?


「お、取れた♪じゃ、行こうか、愛華」

レイは首輪をポトリと落としました。
チリリ、と鈴が鳴りました。鈴の音は、なんだか寂しそうでした

私は、レイにしっかりとくっつきました。


「それでは!外の世界へっ!!」

レイは、器用に窓をガラリと開けると、部屋の外へと飛び出しました。

「あ、あぅあ!!」

目が開かなかった頃とは、何もかもが違う気がしました。
目に鮮やかな青のなかに、白く、フワフワとしたものが浮かんでいます。

あれは何でしょう?

レイの足元には、緑色をした何かが、茶色いものの上に、たくさん生えています。

あれらは何なのでしょう!

目に入るもの、耳で聞こえるもの、鼻で嗅げるもの、全てが美しく、心地いいのです。外とは、なんて素敵なところなのでしょうか!

「愛華、しっかり捕まっててね!走るよ!」

レイが後ろに乗っかっている私に向かって話しかけてきました。
私はコクリとうなずき、手に込める力を強くしました。

この先に、一体どんなものがあるのでしょうか。
胸のドキドキが止まりません!



【第一章 涙が出なかった少女の話 完】