コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ

第二章 何でも見えてしまう少年の話 ( No.33 )
日時: 2016/01/09 19:54
名前: のれり (ID: R4l9RSpR)

「はぁ~るぅ~くぅ~~んっ!こんな所にいたんだぁ~♪」

ズルズルと何かを引きずるような音がして振り返ると、そこには___


大きなくまのぬいぐるみを引きずった女がいた。
___否。女『達』がいた。
女達、と言っても、くまのぬいぐるみを引きずっているのは、先頭にいる髪の長い女だけだが。それ以外の女達は皆、宙に浮きながら、ひたすらに俺のことを凝視している。……血走った瞳で、血にまみれた姿で。ひはめ

「もぅ~、春くんたら、こんな路地裏に入り込んでぇ~、私から逃げるなぁんてひどいわぁ~」

女はそう言うと、ジリジリと俺との距離を縮めてくる。一歩、また一歩と近づいてくるたびに俺もそれに合わせて後ろへ下がる。そして、霊体である女達も少しずつだが、確実に俺に近づいてきている。

すると、こつり、と背中が硬いものにぶつかった。_____壁だ。
逃げ道が、完全に塞がれてしまった。

「んふふふっあははぁっっ♪♪春くん、逃げられないわぁ~!ねぇ、春くん。私、ずぅぅぅうううっっと!!見てたのよぉ~?春くんのことぉぉおお!!」

女の手が、俺の眼前に迫ってくる。近くに手がありすぎて、その手が歪んで見えた。俺は、死を覚悟した。……が。


『ピィィィイイイーーーッッ』


甲高いホイッスルの音が、狭い路地裏に響き渡った。

「!?」
「はい、そこの女!止まりなさい!!それ以上春くんに近づくことは規則で許されていません!みんな!あの女を捕らえなさい!!」
「「はい!隊長!!」」

ホイッスル少女が一言命ずると、その背後に控えていた十人余りの少女達が一斉にこちらに駆け寄り、あっという間にストーカー野郎の動きを封じた。

俺はその間ずっと『動くことができずにいた』。

俺が動かないでいることを、何を勘違いしたのか先ほどのホイッスル少女が俺に近づいてきた。

「お怪我はありませんか!?近衛隊が……遅れてしまったばかり、危険なことをさせてしまいました!申し訳ありません!」

そうか。コイツは、俺がビビって動けなくなったと勘違いしているのか。失礼なやつだな。

「……大丈夫だ。それより、塩をくれないか?」

『かろうじて動くことができる』右手を差し出した。

「はい!あります!」

キラキラとした瞳で鞄から塩を取り出し、ホイッスル少女は俺に塩を渡した。

「ありがとう」

にこりと微笑み受け取ると、ホイッスル少女は顔を赤らめ、いえそんな!春様のためなら……などと、意味のわからないことをつぶやきはじめた。
まあ、もちろんスルーだが。