コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ

第二章 何でも見えてしまう少年の話 ( No.53 )
日時: 2016/01/09 20:42
名前: のれり (ID: R4l9RSpR)
参照: http://touch.pixiv.net/member_illust.php?mode=medium&illust_id=54019786

久しぶりの投稿になりました( ´-` )
ほんとは、もっと早くに投稿するつもりだったのですが、いろいろと準備がありましてですね……笑

はい、実はこの回から、挿絵を載せることになりました!
毎回挿絵をのせるわけではありませんが、ちょこちょこと載せていこうかなーと思っている次第です(・_・;)

そんなわけで、上のURLにはこの物語の挿絵を載せております(^−^)よかったら、見てくださいな(´ω`人)
ちなみに、右上の子が今回初登場の美月。その隣の子が杏、左下が春で右下が奏となっています!

では、下から本文です!!↓↓

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『ソレ』は、なんの前触れもなく俺の前に現れた。

俺と奏、モップがちょうど晩飯を食べ終わった頃の事だった。
バンッと、いきなりリビングの扉が開かれた。
そして、その開かれた扉から現れたのは____……

「うぇぇーーいっ!!美月様が帰還したぞーー!」

頭を黄色く染めた馬鹿だった。


この馬鹿こそが、俺の幼馴染の最後の一人。
黒石 美月(くろいし みつき)だ。コイツは奏と従兄弟同士で、よく二人でいるのを見かける。
ここに現れたということは、どうやら美月は直帰じゃなかったようだ。

「ふははははははは!!刮目せよ!この物は今日5時より発売の10個限定コージー○ーナーの最新作スイーツ!!『まろやか卵のふんわりシュークリーム』なのだっ!!!」

そう言って、美月は左手にしっかと握ったビニール袋を高々と突き上げた。刹那、俺の隣のナニカが、動いた。
何だ、今のは……?
そんな素朴な質問は、次のコンマ一秒で解決した。

「ふぁぁああぁあぁっ!!みっちゃん……いや!美月様!!貴女様は天女様でございますか!?お腹を空かせた哀れな子羊にどうか慈悲のお恵みをぉぉおっ!!」
先ほど俺の横を風のように通過し、今、美月の足にしがみついているモノ。杏……だった……。

「ふっ……杏よ、その通りだ。我は天女なり!!さぁ奏!春!!杏のように、我を崇め、奉り、そして懇がn……」

杏の態度にすっかり気を大きくした美月は調子に乗ったようだ。
が。美月の表情は奏の顔を一目見た瞬間、お菓子の家を目前にした子供のような表情から、サンタの正体を知ってしまった子供のような絶望的なものへと変わった。

「美月」

奏は、自らが浮かべている表情に似合わないドスの効いた声で美月を呼んだ。
目の錯覚だろうか?なんだか黒いオーラがだだ漏れだぞ、奏。

「な、な……なんだい、奏?あっ……もしかして奏もシュークリーm……」
「あのさ」

どもりながら話す美月の言葉を遮り、奏は一層深いそうな声を出した。
恐ろしいことに、奏はうっすらと笑顔を顔に貼り付けたままだ。
美月の顔には余裕などなく、あるのは冷や汗だけだった。

「暗くなる前に帰っておいでって、いつも言ってるよね?」
「うん」
うん、ここ俺の家だぞ?
「もう外は暗くなってるし……女の子一人で出歩くのは危ないってわかってる?」
「……うん」
母親のようなセリフだぞ、奏。
「……どこかに行きたいなら、俺に言ってよ。いつでも付き合うから。ね?俺心配したんだよ?」
「……うん。ごめんね?奏」
そうか、お前らデキてるのか。

奏と美月は完全に二人の世界に入っている。
きっと、俺が今何を行っても無駄なんだろうな……。
俺は諦めの視線を美月の左手に向けた……が。


ない!
つい先程まで美月の手の内にあった物が見当たらないのだ。

そうか!分かったぞ!!あのシュークリームは、俺が『甘ったるいモノ』を嫌いだと知ったどこぞの妖精が始末してくれたに違いな__…

「うっまぁーーーいっ☆☆このふわふわシュー生地と卵の風味がつめ込まれたとろっとろのカスタァードォ……♪うますぎるぜ☆」

前言撤回。
どこぞのモップがシュークリームを掃除しただけだったようだ。


「あっ……ちょっ、杏!?何勝手に食べてるのさ!!一人一個なのだよっ!?」
「ぇえ……?もう二個食べちゃったYo……☆」
早いな、おい。
いや、だがこれはチャンスじゃないか!!よくやった、杏!!

「まあまぁ、喧嘩するなよ。一人一個なんだろ?なら、俺の分はいいから、あとは奏と美月で一個づつ食べれb……」
「え?何言ってるのだ?春?」

せっかくの俺のお優しい言葉を遮り、美月は首を傾げ、不思議そうに俺を見つめてきた。くっそ。人の話はちゃんと聞けよ。

「全部で7個買ってきたのだよ?まず、春の分でしょ?それから奏に杏、アタシの分に、春のパパさんとママさん、それから春の分!!」
美月は指折り数え、満面の笑みで微笑んだ。

「おい、おかしいぞ。なんで俺が二個食べることになってるんだ!!」
「えぇー?おかしくないのだよ?これも、ァ・ィ♪」
「そんな愛はいらない。もしろ捨ててやる」
「まあまあ、そんなこと言うなって☆はい、春☆『甘ったるいもの大好き』でしょ?」

モップがずい、とシュークリームを俺につきだしてきた。

「……くっ……」

こうなったら、最後の頼みの綱!!奏!!
俺は奏に視線を送った。

たのむ、奏!!俺の視線に気づいてくれ!!そして察してくれ!!

が。そんな俺の願いも虚しく、奏は俺の視線に気づいていない。

「はい、あーーん☆」

あぁ、ダメだ。終わった。
杏によって眼前に迫ってきている『ソレ』を見て、俺は味覚の死滅を感じたのだった。