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- 第三章 少年と少女が出会ってしまった話 ( No.55 )
- 日時: 2016/02/11 11:08
- 名前: のれり (ID: R4l9RSpR)
第三章 少女と少年が出会ってしまった話
愛華side
「ふぅ……それじゃ……行ってきます」
「行ってらっしゃい……どんな結果でも……くよくよしちゃダメだよ愛華は頑張ったんだから」
「ちょっ……なんでそんなに諦めモードなんですか!?」
いくらなんでも、気を使わなすぎですよ、レイ。
今日は待ちに待った高校受験の合格発表日です。幽霊がテストを受けられるのか、とツッコミを入れたいところですが、ご安心ください。
ちゃんと受けられましたから。
と、いうのもどうやら人の多く集まる場所……しかも、誰もが他の人のことを意識しないような、そんなたくさんの人の意識が集まり、絡まりあった場所では、私は……いや、私達幽霊は、人に紛れられるようで、難なくテストを受けることが出来ました。
「だって……ねぇ……?」
「だってじゃありません!そんな可愛い顔で見つめてこないでください!もぅ……行ってきます!!」
グリグリとレイの頭を撫でまくって、私は外に飛び出しました。
レイの嫌味が後ろから聞こえてきましたが、今は無視です。聞こえません!
3月になったと言ってもまだ風は冷たいらしく、道行く人は肩をすぼめてせかせかと歩いていました。
幽霊である私には、暑いも寒いも感覚がないのでわかりませんが、レイが寒い日の朝なんかに吐く白い息は、口から雲を吐き出しているようで、ちょっぴり笑えます。
そんな時、私は実体の身体がとても羨ましく思うのです。
あぁ、私も生きていられたらな……って。
今更こんなことを言っても、どうしようも無いですけどね。
そんなことより、今が大事なのです!
私はいつの間にか私の受験校__涙城(るいじょう)高校にまで来ていました。学校の掲示板の前には、私と同じく合格発表を見に来た受験生たちが溢れかえっています。
「ふふ、本当にこういう時って得よね、幽霊は」
もともと地面から数センチ浮いていた体を、私はさらに高く舞い上がらせました。こんなふうにふわふわ飛んでいれば、人混みなんて敵じゃありませんね!
「112……112……は……」
私は自分の受験番号である、112番を探しました。
聞こえるはずのない心拍数が、自分の体から聞こえてきそうです。
どきどきします。
「110……111……ひゃくじゅう……2!!受かった!合格です!合格しました!」
今までの勉強に費やした時間と苦しみが、今になって喜びになって自分に返ってきました。
軽く手を握っても、手の震えが止まりません。
「112……本当にある。ありますよね!?ふふふ、嬉しいなぁ……」
何度も何度も自分の受験番号と、掲示板に貼りだされている番号を確認しました。こんなに喜びを感じたのは、あの部屋をレイと一緒に出たとき以来な気がします。
次々と、私の脳裏にあの時の記憶が蘇りました。
初めて見た青空に、白い雲。土の香りに名前の知らない黄色い花。
そして、一度だけ見た、お母さんの…………顔。
私を一切見ない……いや、見ることが出来なかったお母さんの、レイに向けたあの優しい笑顔。
なんだか妙に胸が重たく、気持ちが悪くなってきました。
もう、家に帰ってレイをもふもふした方がよさそうです。
私はまた地面から数センチ離れた位置に戻ると、校門を出て外へ歩き出しました。