コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ

第一章 涙が出なかった少女の話 ( No.7 )
日時: 2016/01/09 18:12
名前: のれり (ID: R4l9RSpR)

お父さんとお母さんは、急に話をやめてしまいました。
どうしたのでしょうか?
何も見えない私にとって、聞くという行為しか状況を知ることはできません。

「……じゃあ、もう……家に帰るよ」
「……えぇ。わかったわ……」

そんな、声が聞こえてきました。
……帰る。お父さんは、そう言いました!
さっきまでの悲しさはどこへ行ったのやら。私は、ドキドキしました。

お父さんとお母さんの、住んでいるお家へ行ける。
それは、私にとってとてつもなく嬉しいことです。
お父さんは、私とお母さんに会いにいつも病院に来てくれていましたが、
いつも途中で帰ってしまうのです。

私は、いつかお父さんがいつも帰っていく家に行ってみたかったのです。

するといきなり、バタンっという大きな音が聞こえてきました。
何が始まるのでしょうか?
キキィッという耳ざわりな音がしたあと、いきなりガタガタと揺れ始めました。
なんだか気持ち悪くなりそうです。

揺れが突然激しくなったり、止まったりを何回も繰り返した後、
またまたバタンと、大きな音がしました。

お家に……ついたのでしょうか?
私は、ドキドキが止まりませんでした。

ガチャリ、と金属音がしたかと思うと、何かがこすれるような音がしました。
なにか、開けたようです。

……ついに、お家に入れるようです。

第一章 涙が出なかった少女の話 ( No.8 )
日時: 2016/01/09 18:57
名前: のれり (ID: R4l9RSpR)

お部屋の中は__……真っ暗でした。

……違う。
お部屋の中が真っ暗なのではなく、私の目が開かないから暗く見えるようです。すっかり忘れていました。私は目が見えないのでしたね。

「おかえりっ」

急に男の子の声が聞こえてきました。
さすがに、びっくりしました。どうやら、お部屋の中には誰かいたようです。

「おぉ、レイ。迎えに来てくれたのか」

お父さんの声はやはりどこか暗く、悲しげでした。

「ねえ、赤ちゃんは?」
「……さ、ご飯食べような」

お父さん…………

「ねえ?もしかして……アレ?」
「どうしたんだ、レイ。そんなに鳴いて。そこになにかいるのか?」

……?どうしたのでしょうか?
さっきから会話が噛み合ってないです。それに……普通、人に向かって『鳴く』なんて、言うものでしょうか…?

「ねえ、君……愛華?」

さっきの男の子の声です。
声が出ないので、必死に首を上下にコクコクと動かしました。

「……声も目も……まだ、使えないんだね。愛華……君は……この世に、何をやり残したっていうの?そんなに小さな体で……」

……この世?残る……?
なんの事でしょうか?というか、この男の子は一体誰なんでしょう?
私のことを、お父さんも、お母さんだって気づいてくれないのに、どうしてこの子だけは私に気づいたのでしょう……?

「ね、とりあえずおいでよ。僕の鈴の音を頼りにしてさ」

確かにさっきから男の子の声がする方向では、チリリとかわいい音がしてました。私は彼の鈴の音があまりに可愛らしく鳴るので、その鈴の音を追いかけてみることにしました。

第一章 涙が出なかった少女の話 ( No.9 )
日時: 2016/01/09 18:47
名前: のれり (ID: R4l9RSpR)

「さ、愛華。ここが君の部屋だよ!」

先程お父さんにレイと呼ばれた男の子は、私に向かって自慢気に言いました。
声には出していませんが、今にも「えっへん、どうだ!」と言いそうな勢いです。

ですがね、私が何度も思っているように、私は何も見えません。

「……あ、そっか。見えないんだっけ」

心の声が聞こえたかと思ってビクリとしました。聞こえて……しまったのでしょうか……?いやいや、そんなはずありませんよね。

「まぁ、いいや。愛華、ここにいてね」

……。やはり、聞こえていないようです。
よかった……。なぜかちょっぴり、ほっとしました。


「レーーイ!どこだー?メシだぞー」

とつぜん、どこからかお父さんの声が遠くから聞こえてきました。

「はーい、今行くよ!……じゃ、待っててね愛華。パパさんとご飯食べてくるから!」

え?待って!どこへ……?
こんな時に限って、私の思いは彼には届かないようで、私の疑問には答えてくれないまま、チリリと可愛らしい鈴の音を鳴らしながらどこかへ行ってしまったようです。だんだんと鈴の音が遠ざかっていくのがわかります。

そんな鈴の音が聞こえなくなった頃、また、悲しさが胸を覆い尽くしました。ぷっかり、ぷっかりと浮かびながら、この気持ちがどこからか来るのか、考えていた時でした。

何かが手に触れました。
ソレは、私が触るとギィ、ギィときしむような音を立てて揺れました。

……楽しい。

私はその揺れる物体に手で攻撃を続けました。
何回目かの攻撃をした時でした。ズルリと手が滑って、さっきまで触っていたものとは明らかに触り心地の違う柔らかなものに手が触れました。
布のようです。

どうやら、さっきまで攻撃していた物体は空洞になっていて、何かが入れるようです。
私は、先ほどの柔らかな布に魅せられたようにすぅっとその空洞に収まりました。この空洞も、私が動くときしむ音を上げながらゆらゆらと揺れます。

私は、そんな動きにとても安心しました。
すごく………眠いです。
私は迫り来る眠気に抗わず、その空洞に入ったまま意識を手放しました。

第一章 涙が出なかった少女の話 ( No.10 )
日時: 2016/01/09 19:12
名前: のれり (ID: R4l9RSpR)

「………か……あ……い……」

真っ暗な世界の中で声がしました。
とても、悲しそうな声です。

「あい…………か……あ……か!」

誰でしょう……?
私を呼んでいます。

そうでした。


この、私を呼ぶ声は__……


「愛華!」


突然の大きな声に、パチリと目が開きました。
そして、開けた瞬間、とてつもなく明るい光が私の両目を刺激しました。

「おぉ、良かった。もう目覚めないかと思ったよ」

レイの声がしました。
声がした方をみると、やっぱり眩しいのです。

暗闇が、消えました。
もう、真っ暗ではありませんでした。

ところどころ暗い部分はありますが、
『光』があるのです。

このことをレイに伝えようとしました。

『レイ、真っ暗じゃありませんよ!』

そう言おうとした私の口から出た言葉は__……

「あぅあ……ぅあー」

という、言葉として成立しないような声でした。

「って、うぉ!?もう、声が出せるのか……。まあ、生まれてから5日もたてば、そんなものか?」

いつ……か……?

どうやら、少し寝ている間にずいぶんと日にちがたってしまっていたようです。

「ほんと、死んじゃったかと思って、心配だったんだよ?」

死ぬ?死ぬとは何でしょう?

「あ、もう死んでるか」

私は、死んでいる?

死んでいるとは何なのでしょう?

分かりません。

解りません。

判りません。


「あ、そうだ……ママさんも帰ってきたよ。後で会いに行く?」

お母さん……


そういえば、
レイは誰なのでしょう。

何で、家にいるのでしょう。

どうして、お父さんとお母さんのことを知っているのでしょう。
未だ、レイの姿はおろか、まわりの景色すら見ることのできない私の目が恨めしく思います。
レイは……レイ、とは……なんなのですか?

わかりません。

ワカリマセン。

私にはわからないことだらけです。



遠くでレイの声がした気がしました。

でも、それがホントに聞こえたかどうかもわかりません。


私はまた意識を手放してしまったから。