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コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- 僕がピエロになった夏 ( No.9 )
- 日時: 2015/12/05 19:22
- 名前: 希柳 (ID: yLYdLExj)
ミーンミンミンミン
蝉が鳴いている。
あぁ、あの日もそうだった。
雲ひとつない快晴の空と辺りに響く蝉の声。
忘れるなとでもいうように暑い日差しが僕をさす。
あの日から10回目の夏がきた。
何も変わらない。
瞼を閉じれば生々しくその時の君の顔に声に、眩しい空に夏のにおいを思い出すことができる。
『私はなんで生きてるのかしら。』
自嘲しながら薄く笑った君の顔。
『ねぇ、そう思わない?』
ユラユラと不安定に揺れる君の体。
『皆が笑ってても私は笑えない。皆が泣いてても私は泣けない。皆がなにをしてても私は何も感じられない。』
学校の屋上の柵の向こう側でこっちを見てる君。
『ナギにはきっとわからないだろうね。』
僕にむかって言った声はなんの感情も含まれていなくて。
『ーーーーーー。』
傾いていく君をなにもできずに見ていた。
グシャ
下の方で肉が潰れた音がする。
キャー!
誰かの叫び声がする。
空は相変わらず快晴のまま。
ねぇ、レイ。
君は僕にはわからないって言ったでしょう?
今わかったよ。君が感じていた事が。
だって悲しくないんだ。
入学式から今まで仲良くて、大好きだった君が今、僕の目の前で消えていっても何も感じないんだ。
涙も出ない。
「可笑しいな。」
あぁ。
誰かがくる足音がする。
泣かなければ。
泣かなければ。
気づかれてしまう。
ばれてしまう。
泣かなければ。
他人を騙し、自分も騙すように感情を操らなければ。
わかったよ。
君の最後の言葉。
『ー私はピエロになることに疲れたわ。』
そう言った君思いが。
ミーンミンミンミン
蝉はなき続ける。
ピエロが死んだ日、僕はピエロになった。
誰にもばれぬように、怪しまれぬように
今日も僕は感情を操るのだ。
それから10年。
君が死んで僕がピエロになったあの日から10年。
何も変わらない。
僕は今日も騙しながら生きていく。
fin.
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