コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ

Re: 我ら変人部っ! ( No.2 )
日時: 2017/01/11 19:44
名前: 彼方 (ID: pR7JxfSl)

「…………迷った」
 俺はため息を吐きながら廊下を歩き続ける。

 俺は教室移動の時は必ず誰かと一緒に行動するようにしている。
 しかしそれは、女子のように「一人やだぁ、トイレ一緒に行こぉ」みたいな理由ではなく、もっと切実な理由があるのだ。
 ……つまり、誰かと一緒じゃないと迷うのだ。
 すると必然的に遅刻する。すると不良だと思われる。すると目をつけられる。
 俺はそれを避けたいから、誰かと一緒に行動するようにしている。
 俺がここに入学してからまだ、一ヶ月と少ししか経っていないのだ。道を覚えられる訳がない。
 職員室や下駄箱すらあやふやなのだ。理科室やら音楽室やら、覚える訳ないだろ。

 ……ただ屋上探そうと思っただけなんだけどな。何でこんなに方向音痴かな、俺。
 そんな方向音痴の俺が誰かと一緒に来なかったのには理由がある。正確に言うと、来れない理由が。
 とりあえず上だ、と思って一番上の4階に来たが、北とか南とか、とにかく色々な校舎があるのは卑怯だ。今日中に見つかるかも怪しい。
 ……この廊下、もう3回ぐらい通った気がする。足が痛くなってきた。
 はあ、と本日何回目か分からないため息を吐いて歩き続ける。

 と、廊下の奥にまだ行っていない階段があるのが見えた。とりあえずそこへ向かって、「立ち入り禁止」のビニールテープを無視して上がると____、ビンゴ。
 ようやく屋上への階段を見つけた。
 後ろを振り返ってそれがどこの近くかを覚えておくことにした。……理科室か、それも人体模型がある方の。
 人体模型、人体模型、と呟きながら、俺はドアノブをまじまじと見つめた。そして、駄目元で回してみる。

 硬い感覚が伝わる。やっぱり駄目か。
 俺はブレザーの胸ポケットから、ヘアピンを2つ取り出した。
 もちろん髪を留めようと思って取り出した訳ではない。ヘアピンのうちの1つは半ばから直角に折れ曲がっていて、とても髪を留められそうにない。
 俺は鍵の前で片膝をついて、錠穴にそれを差し込む。
 俗にいうピッキングだ。

 なぜピッキングのやり方を知っているのかというと、俺は鍵屋の息子だからだ。
 そして俺の親父は不真面目で、息子に嬉々としてピッキングのやり方を教えるようなやつだからだ。
 鍵屋の血なのか、それとも特殊な嗜好なのか、鍵を見るとピッキングをしたくなる。
 この屋上のように、あまりメジャーではない会社の鍵は特に。

 特殊な嗜好といえば、もう一つあるんだが……、それは一生誰かに言えそうにないものだ。もしこのピッキングの趣味ともう一つの趣味が誰かに知られれば、友達が鍵しかいなくなるのは間違いない。

「……っと、開いた」
 ピッキングをやりすぎて、大体の鍵は1、2分で開けられるようになってしまった。
 学校の屋上には大体、鍵がかかっている。多分転落やら飛び降りやらを防ぐためだろう。
 だからわざわざ屋上の近くまで来る人はいない。

 ということは、屋上の鍵を開けられさえすれば、自分しか行くことのできない最高の場所が手に入る訳だ。
 自由にあんなコトやこんなコトができる。何をするのかは自重させていただく。
 こういう理由から、誰かと一緒に来ることは不可能だったのだ。

 おっれのばしょー、おっれのばしょーと適当なメロディーをつけて歌いながら勢いよく扉を開けた。
 途端に風が吹き、俺の制服をはためかせる。
 春特有の、花の香りかそれとも日だまりの匂いか、柔らかい匂いが鼻腔をくすぐる。
 やっぱり屋上はいい。もう少しフェンスに近付いてみようか。

 そう思って足を踏み出した時、足の裏に思いもかけない衝撃が伝わる。嫌な感触だ。

 ____俺、何踏んだ?
 恐る恐る足の先を見ると____、
「……うわあああっ!?す、す、すみませんすみませんんっ!!」
 屋上で空を見上げながら寝っ転がっている人の顔を踏んでいた。
 急いで足をどかすと、それはこの高校最強ともうたわれる、前園 真尋先輩の顔だった。
 やばい、俺死んだ。

 俺が冷や汗をかきながら前園先輩を見ていると、前園先輩は何かを期待するような目で俺を見た。
 何だ、何をすれば俺は許してもらえるんだ?
 ……そうか、金だ。
「すっすみませんっ!いまあまり手持ちがないんですけどっ、とりあえずこれだけで勘弁してくださいっ!!」

 俺が焦りながらリュックを漁っていると、不意に前園先輩が口を開いた。
「……おい、今の」
 てっきりすごい声で脅されるかと思いきや、意外にも感情の薄い声だった。
 ……いや、実はすごい怒っててそれで逆に感情の薄い声になっているのかもしれない。

「はひっ」
 緊張のあまり変な声が出た。
 そりゃそうだ。俺は別に不良じゃないから、そういう人と関わったことがない。
 それなのにこんな怖そうな人の顔を踏んでしまったのだ。
 そういう耐性はあまりないので、今の俺は恐怖に震えるしかなかった。
 前園先輩が俺を見上げて言う。うわあ、目つき鋭くて怖え。

「……よかった」
「…………はい?……なにが、ですか」
 よかった?何が?どういうことだ?
 俺の頭の中が疑問符で埋め尽くされる。
 すると、前園先輩はまた、何かを期待するような目で俺を見上げながら言った。
「……今のよかった。もう一回踏んでくれ。頼む」
「…………どういう、ことですか……?」