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Re: 君に捧げた初恋 (処女作) ( No.5 )
日時: 2015/08/21 08:24
名前: 華憐 (ID: m.v883sb)

「じゃ、とりあえず乾杯ー!」

有紗がグラスを高らかにあげる。
私と美乃里と吉野くんも、それにならった。


「有紗は呑む方なの?」

「うーん、まあまあかな。」


たこわさびを軽快につまみながら、有紗が私に応える。


「でもね、吉野がすーごいの。
この間もさ、ひとりでずーっと水みたいに黒ビール呑んでるんだもん。
さすがにびびった。」

「俺、田舎者ですからね。」

おどけて吉野くんがそれに応えると、
有紗はさらに思い出したかのように


「そういえばさ、2人でデートするんでしょ?」

と、吉野くんと隣の美乃里を交互に見つめてはしゃいだ。


「いや、それは誤解だから。プレゼン準備で仲良くなって、
まあ、いろいろ助けてもらったから、お礼も兼ねて、
どっか行こうってなっただけだよ。」


吉野くんの弁解に、美乃里もこくんと頷く。

「そんなこと言ったら川合さん困っちゃうじゃん。ねえ、初音ちゃん。」


突然話をふられて、私も慌てて頷くしかなかった。
吉野くんはその様子がおかしかったのか、ふふっと笑うと


「有紗と初音ちゃんはいつから知り合いなの?」

とさりげなく話題を変えた。



「有紗がね、Twitterで私のこと見つけてくれたの。」

「周りに全然同じゼミの子いなくてさ、検索したの。
そしたら初音がいて。まーじ焦ったよ、知った人いないの。
まあ、あのメンバーだもんね。」


有紗は一気にビールを飲み干すと、ふうーっと息を吐いた。


「どうするの、これから。ゼミ旅行とかさ、企画、目白押しだよ。
あのメンバーで、やっていけんのかな。」


私の言葉に、みんなが、やれやれと肩を落とす。


実際、今日の授業も、挙手を求めても全く手が上がらなかったり、
意見を言う声がまるで聞き取れなかったり、散々だった。


「まあ、うちらは仲良くやって行こう。
とりあえず、私は美乃里と吉野を見守るのに徹するわ」

「だから、そんなんじゃないから」


有紗と吉野くんが言い合うのを聞きながら、
私は美乃里ちゃんの方に席を寄せた。


「美乃里ちゃんはどうしてこのゼミに入ったの?」

「美乃里でいいよ」


そう言って、美乃里は微笑むと


「うーん、なんでかなあ」と首をかしげた。


「私ね、賢い人が好きなの。弁護士とか医者とか、そんなのになる人。だからかもしれない。」


さらっと美乃里は言い切ると、大皿に一つ残った春巻きをほおばった。
なかなかすごいことを言っているようなのに、
美乃里がいうと嫌味がない気がした。


「初音ちゃんは?」

「あ、私も、初音でいいよ。
んー、私は単純に、ほかに行きたいところが特になかったからかも」


ゼミすらめんどくさかったんだけどね、本当は、という言葉は、
ビールと一緒に飲み込んだ。



美乃里は、ふーんと相槌を打つと、

「有紗ちゃんって元気だよね。ゼミ長って感じ。」と、笑った。

「吉野くんとは、どうなの?本当に有紗が言うみたいな感じなの?」

「ないない!本当にお友達って感じ!なーんにもないよ!」


美乃里が笑顔で首を振るのを見ていると、とてもそれが嘘には見えなかった。


「でも、これからどうなるかわかんないしね。
私も密かに2人のこと楽しみにしてるんだよね」

「ちょっと、初音!」


いつのまにか、美乃里にラフに接している自分に気づきながら、
私は有紗と吉野くん、美乃里を順番に見つめた。


有紗はおそらく吉野くん狙いだ。
美乃里は特にそうでもない、が、
吉野くんは、どうなのかわからない。


さっきまでの会話と、これまでの言動を振り返りながら、
私は三角形上のどこにもいない自分自身を、少しさみしい目で見つめていた。