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Re: 君に捧げた初恋 (処女作) ( No.19 )
日時: 2018/06/10 23:15
名前: 華憐 (ID: zA4wGfC2)

▽ 第3章 縮まる距離



— 数日後。


有紗の退学は、ほどなくして、教授から生徒たちに告げられた。



「一身上の都合」
それ以上のことは、教授が言うこともなければ、誰かがあれこれ詮索することもなかった。


「ゼミ長は、副ゼミ長であった藤堂さんで。みなさんよろしいですか?」


教授の問いかけに、パラパラと拍手が起こる、こうして、私がゼミ長になることも、当然のごとく全員賛成で決まった。




「さてと。そういうわけで、新体制で挑むイベントということになりますが。」
教授はひとりひとりにレジュメを配りながら、少し語気を強めた。




レジュメの真ん中には【合同ゼミ 討論会】とあった。

このゼミの名物イベント。ひとつの議題について、うちを含めた3つのゼミが、議論を交わすというもの。


先輩たちの話だと、教授の腕の見せ所...
いや、見栄の張り合いとも言われているだけあって、生徒たちも相当の準備を余儀なくされるらしい。


先ほどの拍手さえ恨めしく思うほど、私はこのタイミングでゼミ長になってしまった自分を哀れんだ。




「では、藤堂さんに、ここからは進行をお願いしようかな。
おっとその前に、藤堂さんの後任で副ゼミ長をやってくれる人はいるかな?」



見なくてもわかる。教授の一言で、教室にいるほとんどが下を向いた。
こんな協調性のかけらも見当たらない面々で、
何をどう進めるのか...。私は深いため息を覚えた。



「あの」


教室の隅から聞こえる声に振り向くと、美乃里が手を挙げていた。


「わたし、吉野くんがいいと思います」


美乃里は隣に座る吉野くんを見ながら「いいでしょ?ひまひま言ってるんだし」と笑いながら言った。



「ん。俺?まいいや、やります。
俺は基本的に、なんでもゼミ長に従いますけども」
吉野くんは特段抵抗することなく、そうおどけて言うと、
書記やるかーと呟いて、前にでた。




美乃里の言うことだから素直に聞いたんだろうか。
そのあまりの決断力と行動の速さに私は舌を巻いていた。



彼らの噂をキャッチしては報告してくれていた
もっぱらのリポーターは、もうここにはいない。
実際のところ、美乃里と吉野くんの間のことは、
私は何も知らなかった。


一方、私の方も、あれから彼と特に連絡を取ったり、
食事をすることもなく、唯一放課後の資格講座で挨拶を交わすくらいだった。



なんでもいいや。私は小さく首を振ると、教壇に向かった。




そんなこんなで、有紗のいなくなったゼミは、
特に何の圧壁もなく、リスタートをしたのであった。