コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ

Re: 長くて短い一年間。 ( No.9 )
日時: 2015/08/21 14:42
名前: 草明 ◆baf8d5Ze3M (ID: Mj3lSPuT)

私の運命。


「もう…きついですかね」

担当医さんが言った、この言葉。
じわん…と、心に響く。

私ははっきり聞かなかった。
「ショックを受けたくなかったら…後で、お父さんお母さんから聞いてね」と、言われたから。

本当は、一緒にその場で聞きたかった。
けど、担当医さん、看護婦さん。お父さん、お母さんの顔が、「この場にいない方がいい」と、言っていたから。

まあ、きっと。
今の私が予想していることと変わらないと思う。
まあ、その予想の答え合わせは…。



きっと、今日の我が家の食卓で。

Re: 長くて短い一年間。 ( No.10 )
日時: 2015/08/21 14:53
名前: 草明 ◆baf8d5Ze3M (ID: Mj3lSPuT)



ぴーっ ぴーっ

駐車場に、車が止まる。
家についた。

「…」

無言で車を出て、家に入る。
私だけじゃない。
お父さんも、お母さんも、何も言わない。

きっと、あの病室の中で、衝撃的なことを聞いたんだと思う。
そう…たとえば——————。




      「余命宣告」とかね。



           *

『え、じゃあ、アンリさんは、手術の方…』
『ああ…。6回くらい、しましたかねぇ』
『そ、そんなに、ですか!?』
『はい。けど、もう検査手術しかないんですよ』
『そうなんですかぁ…。やっぱり、手術の時って、怖いですか?』
『うーん、さすがに6回となると…。怖くはなくなりますよね。まあ、3回目くらいまでは怖かったです』
『そうですかぁ…』

なんとなくテレビを付けたら、病気の特集がやっていた。
アンリ、という、芸能人の手術経験について話しているらしい。
まあ、私は12回。あの人の倍、やっているけど。

カチャン カチャカチャ

ガラスのお皿が、かすれあう音。

「…お母さん、それ、運ぶね」

「あ、美優…。うん、お願いね。ありがとう」

真っ白く、きれいなお皿。
上からの光で、端の方が、キラッ、と光る。

「…私、ポスト見てくる」

Re: 長くて短い一年間。 ( No.11 )
日時: 2015/08/21 15:03
名前: 草明 ◆baf8d5Ze3M (ID: Mj3lSPuT)



キィキィキィ

鍵を回すたびに、高い音が出る。

キィ————。

開けると、もっと高い音が出る。

パサ…っ

あまりにも手紙が入りすぎて、何枚か落ちた。
ほとんどが、スーパーのチラシや、近くの木工店のイベントの手紙。
けど、そんな中に、病院からの手紙もあった。

私の目は、その手紙にくぎ付けになった。
優しいピンクの、縦長の封筒。
裏には、『中央病院』と、少し洒落た字が印刷されている。
そして、表には。
『麻野美優様』その隣に、『大切なお知らせ』と…。

ポタッ ポタッ

他のチラシが、濡れていく。

ポタッ ポタッ

濡れたところが広がって、障ると破けそうなくらい濡れていく。
ダメだ。こんな手紙…しかも、便箋の表を見ただけで、泣くなんて。

ガチャっ

「…たくさん手紙、あったよ」

Re: 長くて短い一年間。 ( No.12 )
日時: 2015/08/21 15:07
名前: 草明 ◆baf8d5Ze3M (ID: Mj3lSPuT)

机の上に、ポストに入っていたものをすべて置く。
なんとなく、病院からの手紙は、一番下に置いた。

「あ、ありがとう美優。ほら、ご飯できたわ。食べましょ」

「うん…」

「おおっ。母さんのご飯は、おいしそうだなぁ。な、美優」

「うん、とってもおいしそう」

「そう?ありがとう。じゃあ」

「「「いただきます」」」

Re: 長くて短い一年間。 ( No.13 )
日時: 2015/08/21 15:13
名前: 草明 ◆baf8d5Ze3M (ID: Mj3lSPuT)



『わははははは』
『いやあ、コトルルさんは、面白いですねぇ』
『あら、褒められてるわ、ルルさん』
『ほんとね、コトさん』
『はは。しゃべり方もおもしろい』

テレビでは、バラエティー番組をやっていた。
最近話題の、『コトルル』という、女の人二人組のお笑い芸人が出ていた。
会場も、ものすごく明るい雰囲気だ。

けど、今の私たち3人の間には、緊張した空気が張りつめていた。
そんな中、お母さんが切り出す。

「ねえ、美優。今日、病院であったことなんだけどね」

「うん」

どうも、明るい話じゃないらしい。