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Re: 後輩くんの甘い誘惑 ( No.17 )
日時: 2015/08/26 16:02
名前: 久遠 ◆rGcG0.UA8k (ID: AzZuySm.)

結衣side

照りつける太陽に響く地面を蹴る音と声の数々。
それらが意味するのは体育祭の開幕で——今は短距離走が始まるところだった。

等々本番の日になっちゃった……。
各々に緊張が走る中、私は全く別の意味で緊張し冷や汗を浮かべていた。

その理由はやっぱり、東くんとの約束にあると思う。

「絶対、本人の前でなんて呼べないよ……」

東くんが個人種目で一位になったら、名前で呼ぶという約束。
私はそれを了承したし今更騒いだってどうにもならない事は分かってるけど。

それでも無理だと思ってしまうのは、東くんのやる気に満ちた表情を見たせいか。
それとも単に私が意気地無しのせいか——

どっちだとしても、私に今出来るのは一つだけなんだけど。

「うー……今は応援にだけ集中しよう」

そう自分に言い聞かせるのと同時に、二年生の種目である50メートル走が始まった。
一斉に走り出す中から東くんの姿を探してジッとスタートラインを見つめる。

「いたっ」

東くんは一番内側のスタートラインに立っていた。
先生がスタートの合図を鳴らすと同時に走り出して——

東くん、頑張って!!

ギュッと手を握りしめ祈るような体制で応援する。
すると、それが伝わったのか東くんと長身の男の子の一騎打ちとなっていた。

それを見ながら必死にエールを送って——
長いようで短く感じた50メートル走の結果は、惜しくも東くんの2位で終わったのだった。

「惜しかったのに」

ポツリと出た言葉は思いの外、悔しさがこもっていて自分で驚いてしまった。
あれ、さっぃまであんなに東くんが一位を取ったらって思ってたのに。

何故か今は純粋に東くんが追い抜かれてしまった事が凄く悔しいのだ。
私、勝手かもしれない。

名前で呼ぶのは凄く恥ずかしくて気が進まないのに。
それでも東くんには一番になって欲しいなんて——

「東くんが聞いたら呆れちゃうだろうな……」

苦笑混じりに呟いて、次の競技を確認する。
と、次は私が走る番だと気づいて、慌ててスタート地点に移動するのだった。