コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- Re: 甘い誘惑 ( No.7 )
- 日時: 2015/08/24 23:09
- 名前: 久遠 ◆rGcG0.UA8k (ID: lFtUuTXy)
「……頑張った、んだけどな」
持久走を終えて、というかその後の授業も終えて今は放課後。
自分なりに必死に走ったけど結果はついてこず、予想通りビリになってしまって。
今は罰の掃除中です。
「はぁ……」
憂鬱な気分になりながら箒で埃をはきとって。
手を動かしながら考えるのは今朝約束した東くんのこと。
一応、今日は用事ができたから先に帰ってて。
ってメールは送ったけど。
……流石にクラスでビリになった罰で掃除しなきゃだから先に帰っててとは言えなかった。
それくらいの見栄は許されるはず……。
なんて考えながら黙々と掃除をしてると。
「小鳥遊さん、そっちは終わった?」
と声を掛けられた。
忘れていたけど、私は一人で掃除してる訳じゃなくて。
——同じく男子でビリだった佐伯くんと2人で居残っているのだ。
「大体は……」
そう答えると佐伯くんも「こっちも大体終わったよ」と笑いかけてくれて。
つられる様に私の頬も緩んだ。
他の男子だったらもっと気まずいもんね。
佐伯くんは何ていうか雰囲気が柔らかい感じがして、他の男子程緊張しなくてすむのだ。
そんな思いから掃除当番が佐伯くんとで良かったと、思えた瞬間だった。
「先輩」
この場に居るはずのない人の声がして、廊下の方へ振り向く。
「あ、東くん!?」
何でココに? 先に帰ったんじゃ……。
そう言おうとしたんだけど、言葉を続ける前に腕を引かれて教室から引っ張り出される。
怒ってる、の?
腕を掴む力が思いのほか強く、痛いくらいで。
だけどそれを言う事を許さないくらいに東くんの表情は固くて。
結局何も言い出せないまま、引かれるままに空き教室まで連れてこられた。
人気もなく薄暗い教室に入った所でようやく腕を離してくれる東くん。
様子の可笑しい東くんに戸惑いながらも話してくれるのを待つと、呟く様に言った。
「どうして、嘘をついたんですか」
と。
嘘というのは私が張った見栄についてだと思う。
「それは……」
「僕のこと本当は嫌いなんじゃないんですか? だから嘘までついて」
「違っ……そうじゃないよ」
東くんの事嫌いだなんて事は無い。
好きだって、断言できる訳じゃないけど……それでも一緒に帰るのを楽しみにしてたし。
そう伝えたかったのに東くんは更に言い募って。
「だったら……何であんなに楽しそうだったんですか」
「楽しそう……?」
まさか掃除が楽しそうに見えたのだろうか。
……流石にそうじゃないとは思うけど、他に思い当たる事がなくて困惑した。
「先輩、笑ってたじゃないですか」
「それって……」
東くんの言いたかった事がやっと分かったかも知れない。
つまり、東くんは佐伯くんに嫉妬したんだと思う。
それに気づくと同時に顔が熱くなるのが分かった。
「悪いですか……嫉妬して。器の小さい男だって思いますか」
そう言った東くんの顔もほんのり赤く染まっていて、それが凄く……可愛いと思った。
「そんなこと、思わないよ」
「そうですか……って、え?」
「嫉妬してくれて、その嬉しかった……と思うし」
それだけ伝えて気恥ずかしさから逃げ出そうとして。
グイッと肩を引かれた。
「それって、少しは僕のこと意識してくれてるって思ってもいいんですよね?」
「っ……!!」
耳元で囁くように聞こえた東くんの声は、凄く熱っぽくて。
顔だけじゃなくて全身の体温が上がったのが分かった。
「先輩、真っ赤ですよ?」
「し、知らない! もう、教室戻るよっ!」
高鳴る鼓動を隠すようにそう言って、廊下へと出る私を東くんは止めなかった。
それから2人で教室まで戻ると佐伯くんから置き手紙が残されていて。
『掃除は全部やっておいたから、帰って大丈夫だよ』
と書かれていた。
それを読んで有難いやら恥ずかしいやら、複雑な気持ちを抱えながらも東くんと下校して。
その頃には煩かった心音も落ち着きを取り戻していたのだった。