コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ

根暗本屋店員 1-final ( No.16 )
日時: 2015/08/24 08:44
名前: 中の人 (ID: 6vxFia0Q)

「……」

お風呂は物凄く気持ちよかった。
体が冷めていたから余計なのかもしれない。
お風呂から上がって用意してあったバスタオルを借りた。
下着も乾燥機のお陰で乾いていた。
問題は…

「……」

根暗本屋店員 〜final 根暗本屋店員は〜

服…だ。
別に人から服を借りるのには違和感はない。
でも、毬楽さんに借りるのは、いくらなんでも試練が大きすぎないか。
しかも、もやしだと思っていたのに身長はあるから自分が着るとワンピースみたいになってる。
丁寧に長袖(七分袖?)を出してくれているから、勿論萌袖になる。

付き合ってもいないのに試練が大きすぎないか。

「でも着ないと出れないし…」

仕方なく大きめ…というか大きすぎるシャツを着て、短パンを履く(短パンは新品そうで申し訳なかった)。
短パンをとったとき、ガシャンと音がしてなにかと思えば、ベルトが落ちた音で、流石にそれには少し笑った。
なんだか過保護なんだなぁって。

「お風呂上がりました…」
「ん、あぁ。気持ちよかった?」
「おかげさまで」

お風呂場から出ると丁度毬楽さんがいた。
彼はいつの間にか着替えていて、しかもメガネをつけていなかった。
それにはドキッとした。
なんか、メガネない毬楽さんって…色気が…。
しばらくじーっと彼を見ていると

「な、なんか僕変かな…?」

と言われたんでやめた。
やっぱり性格はもやしだ。

「いえ…」

彼から視線を外して部屋を見渡す。
毬楽さんっぽくてシンプルな部屋だ。
そこには私の持っていた荷物もあった。
そうだ、帰らないと…。

「あの、毬楽さん。私、も……う…?」

チラッと時計を見て7時を回ってるのを確認して、帰りを告げようとした時、急に彼に抱きしめられた。
お風呂に入る前よりも強く。

「ごめん、少しだけ」

雨に濡れて疲れているのかいつもよりも低い声が耳元で聞こえる。
やめて…。
そんな、そんなのは好きな人だけにしてよ…。
そう思っていると体から手が離れ、解放された。

「もう7時だね、送っていくよ」

彼が私に背を向けて玄関へと向かう。
待って。

「毬楽さん…!」

気づけば声が自然に出ていた。

「そういうのは好きな人だけにしてくださいよ…」

震えていた。

「好きでもない人を抱きしめたりして…期待させないでください!」

涙が出ていた。
嫌われたかな…。
花憐はああ言ってたけど、告白なんてしないほうがいいんだよ。
今のは告白かどうかはわからないけど。
1、2秒のフリーズがすごく長く感じられた。
心の中では毬楽さんの恋愛対象に私はいないよねなんて明るく考えててもどうしても涙が止まらない。

「…ごめん」

さっきまで目を見開いていた彼がそう小さく呟く。
やっぱり、ダメかぁ…。
いつもみたいに話すことも出来なさそうだな、私が立ち直れなさそう。
頭の中がごちゃごちゃになってくる。
嫌、嫌わないで。
私のこと好きじゃなくていい。
だから、お願い…嫌いにはならないでよ…。
そう思ってるのに

「いえ、こちらこそすみません。帰りますね」

どうして素直になれないんだろ。
鞄をとって玄関へ向かう。
毬楽さんの横を通り過ぎようとした。
その時、腕を引かれ、そのまま彼に倒れ込んでしまう。

「やだ、帰らないで…」

私に完全に押し倒されたような格好になりながらそう彼が言う。
今度は私が目を見開く番だった。

「上手く言えないけど、僕、佐治さんのこと好き」

「あまり佐治さんのこと知らないけど、知らない内に佐治さんのこと好きになってた」。
毬楽さんの口から紡がれる"好き"。
う、そ…。

「僕と、つ、付き合って…?」
「…なんで疑問系なの…」

やっと口から出たのは皮肉な言葉。
私が伝えたいのはこれじゃない。

「私も…好き、です」

再度抱きしめられる。
彼の腕は暖かくてお風呂なんかよりもすぐ熱くなった。
もやし店員だなんて、ごめん。

そんなところを含めて気になってたんじゃなくて、彼が好きだったんだ。

「へへっ、優希ちゃん、よろしくね」

へらっと笑われたのにも顔が熱くなったけど、名前で呼ばれたのにびっくり。

「本当はまだ一緒にいたいけど、そろそろ帰らないとね」

靴を履いて、外に出る。
いつの間にか雨は上がっていたらしく星が見えていた。
ここから私の家は10分くらいでつく。
「またお姫様だっこで連れて行ってあげようか?」なんて言われた時には彼を殴ると同時に意外と積極的…?と思ったりもした。
それから私の家に着くまで握られた左手は恥ずかしいようで幸せ。

目つきの悪くて180cmでメガネな本屋店員は今日も元気そうです。
今は私の彼氏だけど。