コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- ひとつまみの甘さと0.5ビター 1-10 ( No.62 )
- 日時: 2016/01/12 20:36
- 名前: 中の人 (ID: M/mF9VzB)
ひとつまみの甘さと0.5ビター
〜第10話 監督さんの仕事〜
「ごめんなさい、私のせいで...」
「大丈夫だって、もう4回目だよ?」
そんなに謝っていたんだ...と自分ながら驚く。
夜も深くなってきたのにまだ賑わう商店街。
プライベートで私は監督さんと初めて肩を並べていた。
「俺と雪さんの仲だからいいんだって〜」
どんな仲ですか!?と思わずツッコミそうになったが、監督さんがあまりにも優しそうに笑っていたからやめた。
「寒いなぁ...」
「ですねぇ...」
マフラーも防寒着も車の中にあるからか、何も着ていない付けていない状態だと更に寒く感じる。
感じるだけじゃなくて寒いんだと思うけど...。
「あのさ」
白い息を面白げに空に吐いてると声をかけられる。
「雪さんって何でシナリオライターなったの?」
「うー...ん...」
急に話を振られて答えに困る。
そういや、あまり深く考えたことは無かったなぁ。
ただ普通に生きていたらシナリオライターになっていただけ。
でも、一つだけ言えるのは、
「よく分からないですけど、後悔してないです」
真面目に答えると「雪さんかっこいい〜」って笑われた。
折角真面目に答えたのに...。
「監督さんは?」
「ん?」
「監督さんはどうしてアニメ監督になったんですか?」
そうだなぁと悩んでいる。
なんだ、監督さんだってなかなか答えは出てこないじゃないか。
私が難しく考えてただけなのかもしれない。
「多分、根元は雪さんと一緒かな。何となくなったけど、後悔してない」
真っ直ぐな声がかっこいい。
私とは違う何かを持ってる気がした。
「強いていえば、俺にさ血の繋がらない妹がいてさ。俺が好きで学生の時作ってた簡単なアニメをソイツがすっごい褒めてくれたわけ。監督向いてんじゃない?って」
その妹さんの真似なのか裏声で言う監督さん。
微笑ましい話なのに、ちょっと心が傷んだ。
羨ましいなって、思っちゃった。
「俺、好きだったんだけど、仮にも兄妹だったし、迷惑かけたくなかったんだ」
「そう、ですか...」
そう声に出してからハッとする。
あまりにも歯切れの悪い嫌な答えになってしまっていた。
謝ろうか、言い訳をしようかって相手の顔を伺うとなんとも無い顔で「そうなんだよ〜」って笑っていて。
こんなもどかしいことは初めてだな。
言葉にすることが、かなり怖いんだな、多分。
「ってか、俺の恋愛話になっちゃったなぁ...。雪さんは好きな人とかいたの?」
「急ですね...」
今は居ますよ。
私の初恋ですよ。
その言葉を飲み込んで考えるふりをする。
アニメが終わるまでまだ時間があるんだし、今じゃなくてもいい。
「雪さんモテそうなんだもーん」
「私はモテませんよ...監督さんがモテそうです」
「上手くかわされた...」
監督さんや私の仕事みたいに、後悔しなければいいかなって。
...うじうじしてたら周りに取られちゃいそうだけどね。