コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- ひとつまみの甘さと0.5ビター 1-11 ( No.64 )
- 日時: 2016/01/20 23:04
- 名前: 中の人 (ID: 74bMPJTH)
雪さんがそんな表情したら期待する。
ひとつまみの甘さと0.5ビター
〜第11話 偶然一緒〜
俺の初恋の話をした。
「そう、ですか」
だなんて表情を曇らせて言われると嫌ながらも期待しちゃう。
男がなんて女々しいんだって思われても仕方ないけどさ。
今日だってさ、すっごい妬いた。
雪さんが何気ない顔で湊にタオル貸していたり、今日会ったばっかなのに湊とか愛雅先輩と仲良かったり。
...最近こんなのばっかり。
ちっさい男だなぁ、嫌われそうだなんて思っていた矢先、このことだった。
不覚にも、確信はなくともニヤけてしまった。
気持ち悪いな...。
「雪さんは好きな人とかいたの?」
「急ですね...」
多分、これで居ましたよなんて言われたら俺が妬く。
別に誰が恋したって関係ないじゃないか。
頭ではそう分かっているのに心が動いてくれない。
...いつの間にこんなに惚れてたかなぁ...。
「うーん...」
なかなか返事の返ってこない時間は割と辛い。
俺を傷つけないように...?ってか、これこそただの自意識過剰だ...。
でもいたなら知っておきたい。
わざとこんな言葉をかけるのは相当意地悪かもしれないけど
「雪さんモテそうなんだもーん」
って。
言ってみただけ。
でも彼女と仕事していたら分かるんだ。
柔らかい性格で何事にも熱心で愛らしくて。
モテないはずが無いんだ...本人が気づくかは別として。
「私はモテませんよ...監督さんがモテそうです」
どうやら失敗したみたいだ。
「上手くかわされた...」
露骨にショックを受けたふりをすると隣からいかにも女性らしい笑い声がする。
白い息を吐きながらふにゃっと目を細める彼女を見てるとなんだかどうでもいい気にもなる。
「監督さん、今、彼女さんいるんですか?」
「雪さん、今、彼氏いるの?」
「「あっ...」」
口から出ていた言葉が重なりフリーズ。
歩くのもやめてお互いを見るのは恥ずかしい気もしたけど、自然に笑いが込み上げてきた。
「前にも意見が被ったことありましたね〜」
「あの時はほんとにビックリした」
「私、ほぼ寝ないで考えちゃったんですよ。同じシーンを沢山選びすぎちゃって」
「偶然、俺、その日徹夜だったなぁ...」
しょうもない話が楽しい。
今、こうやって隣に彼女がいるのが嬉しい。
単純なヤツだな、俺は。
そう思っていたら丁度タクシー場に着いた。
「あっ、やっと着きましたね」
飲食店から出て10分15分くらいしか経っていないのに随分色んな事を知れた気分だ。
「もう少し話したかったなぁ...」
そう彼女が小さく言うもんだから独占欲が生まれるのも仕方ないことなんだと自分を押さえ込む。
「じゃあ、また次の話し合いで」
「はいっ!楽しみにしてますね」
俺が楽しみにしてる。
雪さんを乗せたタクシーがエンジンをかけて見えなくなった頃に俺は近くにあるマンションに足を早めた。
すっかり酔いは冷めて、足取りは軽いものになっていた。