コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ

読み切り小説2 ( No.66 )
日時: 2016/03/28 20:04
名前: 中の人 (ID: hFu5/zEO)

愛してるがサヨナラに変わる時。

読み切り小説

「あきらぁ...」
「ん、どうした、葵」
「明日数学II、二時間もあるんだよ?」
「うっわ、ダルいな...」

頑張れよ?と私を撫でながら笑いかけてくれる。
憂鬱な私を癒してくれる弱い笑顔だ。
それを見ると、周りの女の子達が羨ましがるのがわかる。

「ねぇ、牧乃」
「...真白か」
「私って何なんだろう」
「浮気依存症者?」

何それ...と冗談めいたように普段使いもしない笑顔を貼り付けて、歩きながらスマホに夢中でこちらには目もくれない彼に微笑みを魅せる。
ねぇ、私の方を見て笑ってよ。

最初は仲良かったハズ。
抱きしめあってキスし合って幸せだったハズ。
いくらお互い浮気依存症でも本命だったハズ。

疑問もないけど、昔から男の子が寄ってきた。
お母さんはモデルだったし、お父さんは格好いいカメラマン。
勉強だって、運動だって大好きで。
今みたいに無理して笑うなんて絶対になかった。

やだな、期待されるの。
あの子は将来女優かなとかモデルかなとか...やだな。

晶だけがなんだか分かってくれた気がした。
告白されて恋人になって、もっと知って欲しかった。
私ね、実はかなりのコレクターなの。
あのちょっと怖いドラマ、大好きだったんだよ。
最近流行ってる歌もいいけど、アメリカの曲もいいよね。

他愛のないことを求めすぎた。

「あのね」
「んー」
「私、晶が好き」
「んー」
「でもね、」

もう辛いの。
じゃあね、バイバイ。

「俺も葵が好きだったよ」

ほら、やっぱり。
彼の言葉を聞いて背中を向ける。
行かないでなんてないもんね...面倒くさいかな。

いつも好きなのは私だけ。
告白されても結局顔とか未来とか身体とか。
見てるだけの人形とか。
...それだけの価値。

「やだな、涙でそう」

少し駆け足になって、地面に張った雨を飛ばしながら。
途端、

「また泣いてるのか」
「泣いてません」
「泣いてるな」
「泣いてません!」

道行く通行人とぶつかる。
それもよく知れた通行人と。

俯いたまま、上を向けば本当に泣いてしまいそう。
腕を引かれて、そのまま連れていかれる。
場所なんていう必要も無い、通行人の家。

「...晶と別れたのか」
「私が捨てたの」
「...珍しいな」

でしょ?と背伸びた言葉を吐き捨ててタオルを受け取る。
ラベンダーのキツいような優しいような香りが昔から大好き。

「昔からだっけな、男運ないの」
「うん」
「モテるのにな」
「うん」
「...よく頑張った」

優しく撫でてもらう。
その手は晶より少し大きくて大人の手。
私よりも沢山社会を見てきて、なにか安心できる手。
大好きな人の手。

「私、ちゃんとした恋が出来るかな...」
「さぁな...。でも、まぁ、お前なら出来るんじゃないか?」

よかった。
そのまま意識が遠のいた。