コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- 読み切り ( No.70 )
- 日時: 2016/09/14 13:05
- 名前: 中の人 (ID: gfIXAr2y)
行き場のない感情を私は書く。
君が止めるまで、何時までも一心不乱に。
読み切り
君が死んだその日。
私は涙さえ出なかった。
理由はどうもわからない、何故だろうか。
心が冷めきっているとは嫌でも知っていた。
無関心。無気力。冷淡。冷酷。
どれだけそう言われ言ってきたのか。
逆に、君の死体を見て綺麗だと思った私は末期だろうか。
右手の手首に刺さった錆のついたナイフ。
そこから滴る綺麗な朱。
首をだらしなく傾け、今にも顔を上げておかえりと言いそうな姿勢。
なんて完璧なんだろう。
嗚呼、私はこの人を愛している。
次の日になってからやけに君が夢の登場人物。
着飾った正装に少しヒールの高い上品な靴、純白色をした帽子を片手に笑いかける王子様。
そして私はその手に引かれて駆け出す。
遠くへ、遠くへ。
でも君は不意に止まる。
どうしたの?そう聞くために長い前髪が目にかかったまんま君の後頭部を見つめる。
何か具合でも悪いのだろうか、そういえば君は胃が弱かった。
ううん、なんでもないよって君が言っても震えている声には何も期待されない。
もしかしたら身震いする程の哀しみに囚われているのだろうか。
強引にこちらを向かせようとすると腹部に鈍い痛みが生じる。
まただ。
夢は終わりを教えてくれない。
何度も繰り返される夢に少しは気づいていたのかもしれない。
ただ、この夢がどうも気持ちが良くて覚めるには勿体ない。
身体はもがき手を伸ばすのに心だけ深海へ沈む。
海の底は思っていたよりも暖かくて抱き締められているような心地の良さ。
そういう時に限って邪魔者が居る。
私の夢くらい勝手に見させておくれよ、全く。
必死に呼び止めるなんとも耳障りな声。
その声を1度も拾わず右往左往しながら時は流れる。
実際どのくらい経ったのだろう。
到底、季節感なんてある訳がないものだからまだ1時間しか経っていないかもしれない。
いや、1日は経った?それとももう3ヶ月?流石に1年は早いもの。
なんとも今日は運が悪い。
声を出して邪魔してくるだけでなく潜ってくる。
近寄らないで、やめて。
指先が触れるまで10cm。
5cm、3cm、あと1cmしかない。
"君が触れた所で目が覚めた"
そのまま上に引き上げられた。
太陽に負けないくらいの笑顔を見ながら。
なんだ陸地は暑すぎる。
体に纏わりつく正装は気持ち悪くて、脱ぎ捨てたい。
そんな中、抱き締められたら更に気持ち悪い。
「...おはよう」
必死に絞り出した声がそれなら仕方が無いのだろう。
最初から全部夢ならそう言ってくれたら良かったのに。