コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- Re: ムニキス【リメイク】 ( No.6 )
- 日時: 2015/09/21 17:18
- 名前: はるたろう (ID: TlfXPTG.)
人は、話をする前に「耳の穴をかっぽじって」なんて言うが、かっぽじる暇がなかったからだろうか。
言葉が聞き取りにくくて「はい」なんて簡単に言ってしまった。
「よかった」大人の女性な微笑みをナディアは顔に浮かべた。扉に向かい、指を鳴らすと待ち構えていた人物が登場した。白髪の長髪が鬱陶しそうな印象的な、端正な容姿の……男?だろうか。息をしているのか疑うほどの青白く細い手を伸ばし、ジジの顔に触れた。
「いひゃいいひゃい…いひゃいれす!」
「フン」
正確には、頬を摘ままれたという感じだ。本当に血の通っていないかもしれない、冷たい手は痛みを倍増させた。まるで氷のようだ。
「ニコラウス、やめろ。お前は昼寝の用意とレンツォの部屋の清掃、アルフォンス様の御帰宅の用意だ。ジジ…と言ったな、君も手伝ってくれ。…なに?不満か?安心しろ、仕事に応じては夜食を豪華にしてやろう、行け」
勝手に話が進められて、何がなにかさっぱり分からなかった。とりあえず、頬から手を放したニコラウスの後ろについていくことにしておこう。
長い白髪が埃とともに汚い部屋で舞い上がり、ジジの鼻を爆発させた。自分は俗に言うアレルギーというやつを持っているのだろうと思った。
ここが『アルフォンス様』の部屋らしい。なにかと、らしいを乱用しているが、これは知らないことばかりだからだ。紹介をされてもいないことを、ペラペラと捏造して話すのもなんだし、これでいいのだろう。
見るからに年季のはいった、コイルの飛び出たソファには土埃が積もり、その横には小さな子供用のブーツが並んでいた。左に並ぶトルソーには子供用のコート。誰が着るのだろう…疑問だ。
「…もう五年は顔を見ていない」急に悲しそうな声を出したニコラウスに、正直いってドキッと心が鳴った。
雪の女王というアンデルセンのお話を知っているだろうか。まさにその女王の如く、物語のなかに生きる者そのもの。思わず息を呑む。
光に透かされ、白く輝いた睫毛を見つめ、「そ、そうなんですか」と戸惑ったような返事を返す。女ならばいいのにと、淡い幻想が脳内を駆け巡り、目の前で扉に痰を吐いた事実のおかげで消え去った。
「これからは、ここに落ち着くらしい。ナディアや…ええと、お前はまだ知らんだろうが……まあ、皆が喜んでな」
「はい」
「……ああ。長くなったな…、お前はそこの部屋の掃除をしていろ。俺はレンツォの部屋を掃除してくる」
「はーい、承知しました…」
ガツガツと白いブーツのピンヒールで木の床を刺し、隣の部屋へと消えていった。
しかし、名前からして男だろう…様付けとなればなにかしらの長となる者だ。子供用のブーツとコートとなれば、男色家なのか、家庭持ちなのか。
「おい」後ろを振り向くと、ニコラウスが物凄い形相で睨み付けていた。
「モタモタするな」
ある意味氷の女王だ。背筋が凍る声にビビりつつも箒を手にとる。