コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- Re: ムニキス【リメイク】 ( No.9 )
- 日時: 2015/10/30 22:30
- 名前: はるたろう (ID: qbtrVkiA)
暗く、じめじめとした煉瓦の道を、レンツォを担ぎながらも走り抜ける。キイキイと嫌な音をたてて、アクセルの左腕は軋み始めた。
「くそっ……エドさんッ!向こうの状況は!」
「女が一人、多分、アンタらと同じ…障害付きだ!!気を付けろ!」
怒号にも似た音で、竜巻はごうごうと吹き荒れた。市場の麦酒が織り成す、生暖かく落ち着いた空気が、今、形となってアクセルの巨体を圧倒するのだから、レンツォが驚く…泣いてるはずだ。
「腰抜けは放っておいて、早くドアを破壊しろ!!」切羽詰まった様子で、エドガーが怒鳴った。
舌打ちをし、アクセルは一気に扉にたたみかける。風が隙間を通る余裕もなく、外側からの力と内側からの力で扉の金具が粉砕された。
割れた風船のようになる戸を全身に受け、揺らぐ姿勢と視線のなか、必死に標的の表情を確認した。
「てめえ…マジに四肢引きちぎるぞ……こんの、クソアマがっ!!」
女にあまり感情的になることはないが、今回は別だ。中にはアクセルの商売道具とやらがあったからだ。
数メートル先であわてふためく緑色の目を持った少女に、アクセルは容赦なく、釘の仕込まれたスパイクを向ける。少女の顔からは血の気がひいた。
別にかっこよく決まったなんて思ってはいないが、流石に、人間が弾丸のように頭から飛んできたら誰しもが、興がさめて息を呑むだろう。
まるで射的のたまのようだ。レンツォはアクセルの頭へ涙目のまま直撃する。
方向転換したアクセルの勢いある丸太のような足は、少女が寄りかかる
レンガの壁へとぶつかり、大きな穴がぽっかりとあいた。それは大砲の弾ほどの大きさであり、へなへなとその場へと少女は座り込む。
「……どういうつもりだ…」蛙を睨む蛇の如く形相で、アクセルが問いかける。
人指し指を横に振り、さっきまでの態度からは感じ取れないキザな男を演じた。「女は殺さない主義なんだよ…なあ?子猫ちゃん?」少女へとレンツォはウィンクをし、拳が震え怒りを露にしているアクセルに油を注いだ。
「なーにーがっ、子猫ちゃんだ!!いいか、怒っているんじゃねえ…大事な商売道具に傷をつけられたら困るって話でな…」
「しょうば…?あ、あの人ですか!?私、あの人のことを護ろうとしたら…ええと……」
少女の指す方向をアクセルは嬉しそうに見る。むくむくと起き上がる少年に駆け寄ると、少年もまた喜びのあまり泣き出した。
「…あの子……」
「ミケのことか?」
「はいっ、私にパンを分けてくださったんですよ…」
「ふーん」
吹き荒れる風は春にふくそよ風へと変わり、部屋のほこりを外へと撒き散らしていく。風を操っていたのは少女だということが分かり、ますますレンツォの気をひいた。
そして、エドガーのくしゃみが聞こえ、アクセルはふと我に返る。
「…おい女」
「はっはい!なんでしょうか?」
「……何か異常があったのか。ミケのことを護ったてのは」
顎に手をおき、天井に目をやって考える。
ついさっきのことなのに、ぼんやりとした記憶の中しかなかった。
現れる、黒髪の青年。大量の烏ともに現れ、ミケへ襲いかかろうとした…と、そこまでは覚えていた。
「それが一体?」
質問へは返答できない。
自分達もそれがなんなのか、まるで分かりそうに無いからだ。
襲う死体と謎の青年。関係があるかは謎だが、とりあえず今日のところはレンツォの元へとリンは預けることにしておく。
「ところで、お嬢ちゃんはさあ…障害って知ってるぅ?」
レンツォは軽い調子で、少女の肩を抱き寄せた。