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Re: いつか始まりの魔法世界 ( No.8 )
日時: 2015/09/27 23:35
名前: 九尾桜花 (ID: btNSvKir)

第緑話 目下は輝きに満ちる——二瑚は自由を有する

 「——水晶をお使いください」

——プツっ

 放送機器のスイッチをオフにする。
 終わった。あたしの仕事は。
 ここに来て初めての仕事であるアナウンスが終わった。

「——っ!!」

 璃緋都さんの言ったとおりだ。 あたしの足元には、先ほどと同じような光が浮かび上がる。
 これで、晴れて自由の身、ということだろうか?

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 転送された先は、どこかの高台のような草原だった。
 目下に広がるのは、どこか日本よりもヨーロッパ風な——本当にこんなヨーロッパがあるかどうかはさておき——そんな感じの街が広がっている。

「綺麗ですね、街も空気もそして人も」

「あなたは、だあれ?」

 後ろから声をかけられる。
 片目にだけ包帯が巻いてある、小柄な男の子だ。
 手には、真っ白な薔薇が抱かれている。

「二瑚です。あなたは?」

「妹とお母さんに会いに来たんだ」

 名前ではなく、ここに来た理由で返されてしまう。
 周りを見渡すと

「————!!」

 たくさんの棒が立っている。
 どうやら、霊園のようだ。

「お母さんね、妹と一緒にどこかへ行っちゃったんだ」

 なんと返せばいいかの言葉が思い浮かばない。

「クラウス様、探しましたよ。花は手向けられましたか? ……あなたはどちら様ですか?」

そんなとき、一人の女性がこっちに向かって歩いてきた。
その女性は、あたしが付けているSF(スフ)を見た瞬間、顔色を変えた。

「あなた……、少しこちらへ来ていただいてもよろしいかしら?」

「ルーシェ、ニコは悪い人じゃないよ」

「クラウス様、そういう訳ではないのですが」

 ルーシェと呼ばれた女性は、困ったような顔をしてクラウスと呼ぶ男の子の手をつかむ。

「あなたも、こちらへ」

 ルーシェさんに近づくと、手を握られる。
「“シルベネラ—空間転移—”」


 その言葉で、あたしたちは別の空間へと転移させられたしまった。



「っく、ここは?」

「クラウス様のお屋敷にございます」

 ルーシェさんに案内されるまま、広い屋敷の中を歩いて行く。
 
「こちらです」

 案内された部屋は、落ち着いた雰囲気の部屋だった。
 大きなソファーに座ると、どこからともなくお茶とお菓子をとりだした。
 あれも、魔法なのだろうか?

「あ、ありがとうございます」

 お茶を手にして、飲もうとした———その時、

「一体、どういうことですか……?」

「それを聞きたいのは、こちらのほうです、ッ」

 ルーシェさんは、あたしの首筋にナイフをあてようとした。
 しかし、それは、あたし自身の手によって、阻まれる。
 にこりと、ほほ笑みながら、あたしは返した。

「あたしですか? あたしの名前は二瑚。霧島二瑚って言うんです」

 ルーシェさんは、ナイフに込めていた力を弱めると、それをしまった。

「これから、よろしくお願いしますね。ルーシェさん」

 彼女は、諦めたような顔をした。

「ええ、こちらこそ。なんだか、あなたには勝てる気がしないわ、“転生者”さん」

 そこに、あの男の子が部屋に入ってきた。

「ねえ、ねえ、ルーシェ。ニコといっしょにおやつ食べるんじゃなかったの?」

「そうでしたね。ただいまお持ちいたしますので、そこに座って待っていてください」

「はーい!!」

元気よく、そう返事した男の子の輝かしい瞳に、あたしは、自分自身の自由を感じ取ることが出来た。