コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ

Re: いつか始まりの魔法世界 ( No.9 )
日時: 2015/10/07 22:20
名前: 九尾桜花 (ID: btNSvKir)

<第一章どこの世界でも学生は学園へ——咲花は常識を憶える>

第一話

魔法世界ミクロス イヴァン王国 第5ノ月 38日 9:30

「陛下は、どうして私を呼びだしたんだろ?」

異世界の時間の進み方はなんとなくだけど、早い気がする。
この世界のこの国に来てから約三週間が過ぎた。三週間と言っても、地球にいたときの感覚で、だ。
ミクロスでは、時の流れが違う。一年は600日だし、一月は50日間。一日は30時間もある。全部、地球にいた時よりも長い。けれども、短く感じてしまう。
どれもこれも、この世界に充満する“自然魔力”と呼ばれるもののせいだと思う。
魔力は、全ての生命の生きる糧。実際、魔力さえあれば何日も眠らなくても平気だったりする。(じっさい、私もやってみたら三日くらいなら楽勝だった)

それは置いといて。
そんなことで、時間の感覚が、いまいち分からない。そのため、集合時刻に遅れることのしばしば。
しかし、今日は陛下直々に呼び出されているから、それも出来ない。
悩みながら歩いていると、グレルの姿が見えた。
陛下の執務室へと入っていく。私と同じように呼び出されている可能性が高い。
嫌な予感がする。

「失礼します」

 中には国王陛下、リメル様とグレルがいた。

「遅れてしまい、すみません」

「大丈夫だよ、サキカちゃん。時間ぴったり」

「まあ、遅れなかっただけマシだろ」

 ちっ、グレルむかつく。

「お前、今俺に対してイラついただろ」

「分かるんなら、そんな言い方しないでよね」

「まぁまぁ二人とも、明日から一緒に生活する仲じゃないか。喧嘩しないの」

 陛下が、笑顔でなだめる。…………ん、なにか今、聞き逃してはいけない事を聞いたような。って、

「「は!?」」

「二人とも、息ピッタリ♪」

「ふざけんな陛下!!」「陛下冗談はやめてください……」

 前者が私、後者がグレルだ。

「詳しく事情も聞かないうちから、そんなこと言っちゃだめじゃないか〜」

「陛下、三文で理由を」

「明日からサキカちゃんには学校へ行ってもらいます。
 拒否権はありません。
 グレルと同じ寮で同じ部屋だけど文句言わないでね!」

「意味不明です……」

 なんだか、私よりもグレルの方がショックを受けてるみたい。
 そんな事より、グレルって学校行ってたんだ。マジで知らなかった。

「俺、寮になんか入ってませんけど」

「大丈夫、明日からそこに暮らすことになってるから」

「全然大丈夫じゃないですよ」

「いや、私置いて話されてますけど、結局私のことですよね、これ」

「まぁ、そういうことだよ」

 ふう、ちょっと話を整理しようではないか。
 陛下は、こういった訳だ。明日から私に学校へ通わせると。そのうえで、グレルと同じ部屋にしたと。

「陛下、私は別にいいですよ。学校とか楽しそうだし。それにきっと前の世界の知り合いとかもいそうだし。あと付け足すなら、同じ部屋になって困るのは、グレルだけでしょう」

「大丈夫だサキカ。お前に興味はないからな」

「それはそれで、問題発言だということに気付いているのかな、グレル君」

 臨戦態勢。こいつは今、私に対してひどく失礼なことをいったぞ。

「はいはい、二人とも落ち着く。ね、分かったかな」

 無意識のうちに触っていたナイフを、太股に付けたケースに戻す。

「こんな無愛想で、ちょっと強いだけの男ですが、まぁ許します。私の心は海より深く広いですからね」

「ちょっとサキカちゃん落ち着こうか。うん、同じ部屋にしちゃったのは悪いなぁとは思っていたんだけど、丁度部屋が無くてね」

 絶対嘘だ、確信犯だ。 ま、陛下も考えあってのことだろう。これ以上は何も言わないでおこう。

「でもまた、どうして学校なんかに? 私、それなりに魔法もこの世界のことも分かるようになりましたよ?」

「いやー、世界って広いからさ。いろいろ経験してもらいたい訳なんだよね。グレルも通ってるところだし、安心かなって」

「なるほど〜」

 やばい、学校とかめちゃくちゃいきたい。前の世界では、そんなに興味とか無かったけど、学校で魔法……、だめだ、考えただけで面白い。

「明日からですね」

「おぉ、サキカちゃん物わかりがいいね。さ、グレルも諦めて、明日から寮で生活してね」

「…………陛下のお考えとあらば」

「あ、サキカちゃんの教科書とか制服とか、全部この中に入ってるから」

 陛下が私にそんなに大きくもない箱を手渡した。
 ずっしりとしていて思っていたよりも重かった。
 体がぐらりと傾く。

「っと、危なっかしい」

「あ、ありがと」

 グレルが支えてくれた。

「いちゃつくなら、部屋の外でやってね」

「「いちゃついてません!!」」

「とりあえず説明はこれで終わり、僕もこれから公務があるし。“シルベネラ—空間転移—”!」

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Re: いつか始まりの魔法世界 ( No.10 )
日時: 2015/10/10 23:19
名前: 九尾桜花 (ID: btNSvKir)

 空間転移で、部屋の外へ閉め出された。
 陛下の魔法コントロールは世界一だ。こういう小さな魔法一つだって絶対に外さないし手を抜かない。
 どうやら、グレルも私と同じような事を考えていたらしい。思わずため息をついていた。

「まったく……、陛下は何を勝手なことを」

「まぁ、考えあってのことでしょ。部屋を一緒にしたのだって、きっと“仕事”に支障が無いようにするためだと思うし」

「だが——」

「グレルはいちいち気にしてたら、疲れちゃうよ。簡単に考えなよ」

 グレルに背を向けて、自室へと歩いて行く。まだ、何か言いたげだったが、放っておこう。話を聞いていたら、長くなりそうな予感がするもん。



——ガチャ
 私の部屋は、お城の一番北側にある部屋だ。今の季節は、丁度いい気温だが冬になったら、少し寒そうな感じだった。
 部屋の大きさは、そこそこ広い。お城の中だと、狭いに分類されるが、全くそんな風に感じさせない、立派な部屋だった。

「箱の中身は何じゃろな〜」

 陛下にもらった箱を開く。中には、布のようなもの×2、教科書類、ノート、などなどが入っていた。
 制服、と聞いていたが私の想像していたものとは違っていた。壁にかけてある高校のブレザーに目を向ける。

「何というか、あれだ、ローブか」

 小さいころに見た映画に出てきた魔法使いの羽織っていたような、ローブだ。現実離れしすぎで、恥ずかしい。
 他に入ってたのはスカート。紺色のボックスプリーツのスカートだった。

「あ、これは普通かも……」

 小さなメモが入っていた。陛下からのものだ。

「何々、“サキカちゃんの知ってるような制服じゃないかも〜 結構自由だからね”。
 ふーん、どうしよっか」

 制服はまた今度にしよう。まだ、時間はあるから。
 次は教科書を手に取る。
 パラパラとページをめくってみる。

 …………、何というか

「これ全部、陛下とグレルから教えてもらったよね……」

 パラパラ、わぁお、まじで全部わかるぞこれ。あいつらは、この三週間でいったい私にどれだけのことを詰め込んだのだろう……。

「……、勉強については何とかなりそうだし、他に用意するものは〜」

 がさごそと箱を探ると、何やら指輪と腕輪が出てくる。プラス陛下からのメモ二通目。

「“サキカちゃんは魔力量が多いから、これを付けていってね。これを付けてようやく普通の学生より多いくらいに収まるから” なるはど」

 光にかざしてみると、二つとも淡い粒子のようなものが出てきているのが分かる。
 ためしにつけてみる。
 指輪を右手の人差指に付けると、透明になり、やがて見えなくなった。 消えてしまったのかと不安になり、触ってみると確かにある。
 指から外すと、また元に戻る。

「“キルネラト—魔法可視—”」

 中級生物属性魔法を目に施す。視界が紫色っぽく変化すると、そこに指輪に対する魔法が視えた。

「光属性の不可視魔法と、空間属性の魔貯蔵魔法付き魔封具、か。これ、結構いい値段するんじゃない?」

 私自身で軽く見積もって15万モール(1モール=1円)くらい。2つで30万モール。私の為にこんな高額商品を……、感謝のしようがない。

「“魔法解除”」

 視界が元に戻る。陛下から頂いた魔封具を2つとも付けてみる。
 体がどっと、重くなる。これは、魔法が抑えつけられていることの弊害だ。

「やばい……かも、眠い……」

 魔力が無くなる=眠くなる。と、いうわけで、
 私の思考は緩やかに停止していった。