コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- Re: 金色の魔女とオオカミ ( No.14 )
- 日時: 2015/10/04 19:45
- 名前: ぱすてる∞ (ID: Q.pGZPl6)
#5.5 ウルフの想い
「…え、っと。…改めまして、シュガーです。は、はじめまして。森の奥に住んでる、ただの町娘。よろしく…です」
ソイツは、オレの日常に突然入り込んできた。
チンピラに三対一でからまれていて、放っておくことができなかったのだ。
今は、あのときの行動を本当に後悔している。
「ごめん。オレ、もう君とは会いたくないかな」
そう言って、くるりときびすを返してシュガーとやらから離れる。
最後に見えたシュガーの顔が、すごくショックな顔をしていた。
良心がいたんだけど、それでも振り向くことは許されない。
あの人とオレは、きっと出会ってはいけなかったのだ。
ーー理由?それを話すなら、まず、『イルマール・リリー』という少女の話をしなければならないな。
▽▲▽▲▽▲
#6 リリーとウルフ
ウルフという少年は、両親に見放された捨て子だった。
母、ネフリハル・ヴィオラ は、金遣いが荒く、男を求めていた。
父、ネフリハル・フリマンズは、暴君で、よくヴィオラを殴り、酒を飲んで暮らしていた。
そんな中に生まれてきた子供は両親から求められておらず、ただただ絶望の日々を送る毎日だった。
しばらくたつと、育児を放置され、暴力をふるわれながらも掃除に料理と雑用係りとして暮らす。
ウルフの脳内では、『どうしたら父や母に殴られないですむか』ということしか考えられなくなっていた。
やがて捨てられると、食べる食料もなくなる。
しばらくは物を盗んで暮らしていたが、やがてはそれもできなくなる。
ちっぽけで、弱くて、誰にも求められていない自分。
「オレが死んだら、誰か気づいてくれるかな」
そう願いながら、目を閉じて。
ーー本来ならば、そこで失われるはずだった命。
「…とりあえず、生きよ?」
そんな声がふりそそいだのは、まさにウルフが死のうとしていた直前だった。
「ーーっ!!?」
ばっしゃーん、と豪快にかけられた水。
それは当然口の中にも自然と入り、カラカラだった口に潤いをもたらす。
「んはっ、ぷっはぁっ!?…ぉっ、おま!?」
訳が分からず、目を白黒させると、目の前にほのかに甘い香りがただようクッキーが目の前に差し出された。
ききゅるるる。ウルフの腹が可愛らしく音をたてた。
少女は愛らしい顔立ちを微笑に描いた。
「どうぞ」
と更にクッキーを差し出した。了解を得ると、もう我慢ができなかった。無我夢中で食べる。甘くて、香ばしくて、ハチミツの味がするクッキー。甘いものなんて、いつぶりだろうか。
「お腹すいてたんだね 」
「ん、ひょうだ。ひゃふけてくねて、はひはほう」
「ふふっ、ゆっくりでいいから、とりあえず、食べてお話ししよ」
そういう少女は金色の髪にピンクの瞳をしていている。震えるほどの美貌の持ち主で、その姿は綺麗というよりも可愛らしい。着ている服は、そんな少女によく似合う、一目で高級品だとわかるものだった。しかし、金色の髪にピンクの瞳って、どこかできいてようなーー。
「んあー」
考えたところで無駄と判断し、とりあえず少女に返事にならない返事を返す。
お言葉に甘えて、と心で感謝しつつ、もぐもぐを再開する。
たんまりと入っていたクッキーは跡形もなくなくなり、少しなごりおしげにバスケットを返した。
「あ、ありがとう。助かったよ」
「ん、いいの。あれ、一回落ちちゃったんだもの」
衝撃の事実。
「ひでぇな!おいしかったけど!」
「じょーだんだよ、もう。あなたのお名前は?」
「ウルフだ」
「家名はないの?」
「言いたくない。あいつらは、オレを苦しめただけだから」
今までの過去を振り返りながら、その薄汚れた日々に顔をしかめた。
「そう。わたしはリリー。イルマール・リリー」
「いい名前だな。君にぴったりだ」
そう返すと、リリーは少し驚いたような顔をした。
「ありがとう。あなたのウルフっていうのも、いいと思うわ」
リリーの優しい言葉にウルフはゆるゆると顔をふる。
「全然。オレは、弱くてちっぽけだ。名前に一致しないんだ」
「…なら、強くなればいいじゃない」
「そんな、簡単に…」
強くなれるわけが、と言うつもりだったのだが 、少女の目が、あまりにも優しそうだったから、ついやめてしまった。
「できるわよ。こんなわたしでも、オオカミだし、剣はもてるの。そうだ。お城の兵士にならない?あなたが来てくれたら、わたし嬉しい」
オオカミ、剣。こんな少女が?疑問に思いつつ、そこにはあまりふれない。
人の感情に敏感に育ってきたウルフは、他人の事に深入りしないのだ。
「兵士、か」
「ええ、そう。国を守るお仕事なの」
「無理だな。オレは、この国が嫌いだ」
ウルフがそう言うと、リリーは顔を曇らせた。
「どうして?」
「ーー嫌いだからだ」
「理由になってないわ。………あなた、家族は」
「いないよ」
「そう。だからなのね。あなた、愛がわからないんだわ」
その言い方にむっとしたけど、顔には表さない。
「…分からなくてもいいんだ」
「愛を知らないと、強くだなんて絶対無理」
「……」
そう言われたからこそ、次に言われた言葉は衝撃的だった。
「わたしが、家族になってもいい?」