コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- Re: 金色の魔女とオオカミ ( No.32 )
- 日時: 2015/10/27 10:45
- 名前: ぱすてる∞ (ID: Q.pGZPl6)
#14 リリーの初恋
初めての恋は、城で行われたダンスパーティでのことだった。
栗色の髪に、意思の強い朱色の瞳をもった、美少年。
名前は、クリンド・ハリスといって、皆からはハスと呼ばれていた。
その日は、リリーは城のパーティの会場からは遠く離れた庭園で、ひとり月を眺めていた。
その時リリーは、一応ドレスやアクセサリーなどをつけ、おめかしをしていたのだが、『存在しない姫』ということで、パーティに出れるわけもなく、花や月をみて心を癒したのだった。
そんなとき、ハスは現れた。
「…誰か、いるのかい?」
ちょっとだけ低くて、心になじむ声がふりかかった。
人の声をきくのが久しぶりで、リリーは思わず驚いてしまう。
「だ、だれ…?」
「僕は、クリンド・ハリス。隣の国の、王子なんだ。君は…。この国の住民かい?」
ハスは暗闇でこちらがみえないようで、どんどん話しかけてくる。
見えていたら、リリーを怖がらない人なんていないから。
「わたしは、リリーよ。家名はないの。あなたは、どうしてここに?」
「僕かい?僕は、城に迷ってしまってね。ぶらぶら歩いていたら、君と出会ったんだよ」
「…そう。わたしは、パーティに疲れてしまって」
本当は嘘だけど、聞かれたら困るので先に話しておいた。
「そうなのか。……隣に、座ってもいいかな?」
「ーー!だ、だめよ。わたしーー。わたし、人が嫌いなの」
「人が、嫌い?ふむ、それは困ったな。それでは僕は君のとなりには座れないな」
そんな反応に少しだけ驚きながらも、「えぇ、分かってくれてありがとう」と小さく返事を返した。
「じゃあ、僕は次君と話すときに、君のとなりに座れるようにがんばるよ」
どきん、と胸がたかなった。
暗くて彼の表情はみえないけど、それでも微笑んでいるのがわかって。
「わたしはーー」
「王子さまー!どこなのぉ、ララと踊ってくださいな!」
遠くから響く姉様の声。ここにいてはいけない、と瞬時に判断した。
「ーーごめんなさい、ハリス王子。わたし、ここにいてはいけないの。楽しかったわ、ありがとう!」
「待ってくれよ、君の事をまだなにもーー」
王子の呼び掛けに応じず、走り去る。
無礼な態度だと思われてもいい。
王子のためにも、リリーは会わない方がいいのだ。
金色の魔女が恋をするなんて、恋をされた方は迷惑なのだから。
▽▽▽
「あの少女は一体ーー」
誰なのだろう、と考えて、少女が座っていた椅子を見つめた。
椅子に座ってみると、なるほど、月と花がよくみえる。
そのまま月をみたい衝動にかられるが、パーティの席に戻らねばと思い直し、椅子に手をおいて立ち上がろうとしてーー気づく。
物の感覚があり、手を退けてみればそこにはイヤリングが落ちていた。
おそらく、あの少女のものだろう。
しかし、少女はもういない。
ハスは少女に会える口実を作れたことに喜びを感じている自分に気づいた。
自分は、姿も肩書きも知らない少女に恋をしてしまったのだ。