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Re: 金色の魔女とオオカミ ( No.38 )
日時: 2015/11/07 20:50
名前: ぱすてる∞ (ID: Q.pGZPl6)

#17 ありがとう、ごめんね、愛してる

ごめんなさい。ごめんなさいごめんなさい。

許してもらえなくても良い。
ただ、これだけは間違ってほしくないの。

わたしは、あなたに救われました。数えきれないほどの救いを、もらいました。ーーだから。

ありがとう、ごめんね、愛してるわ。

▽▲▽▲▽

闇の中、明かりは眩しい月だけで、ハスの顔は見えない。
でも、なぜか微笑んでいるのが分かった。

リリーは、固く結ばれた手と逆の手で、胸のシャツを強く掴んだ。

これまでにないほどの緊張感。

どくん、どくんと高鳴る心臓をおさえつけて、深い息をはく。
走ることだけに集中して、その他のことは考えないようにーーすることは、ハスの声によって遮られる。

「緊張してるかい?」

少し低くて、胸の中をくすぐられるような声に鼓膜をゆらされた。

「えぇ、少し。でもね、わたし、あなたとなら大丈夫な気がするの。なんでなのかしら…」

「僕もだよ。多分、君だからなんじゃないかな」

さりげない愛情表現に、顔が熱くなる。
それと同時に、言わなければならないことが多すぎることに気がついた。

存在しない姫のこと。そもそも、姫だったことや、これからのこと。ハスの事情も、たくさんあるのに。

「…あのね、ハス。わたし、姫だったのよ」

俯きながら、秘密をうちあけていく。
走る足は止めず、前へ前へ。

「そんなこと、知ってた」

「わたし、存在しない姫なの」

「ーー」

「ほら、わたしって、金色の魔女が一緒でしょ?王族の血を引き継ぐものがそんな子だったら、皆怯えてしまうし、魔女に悪意を持っている人たちが襲ってくるかもしれない。だから、わたしの存在は隠されている。存在しない姫の存在は、国民の誰もが知らないのよ」

「ーー僕がいる。キミの存在を、消したりなんかしない。僕の存在は君なんだ」

繋がれた手に力がこもる。
告げられる声にも、有無を言わせない感じだった。


「ありがとう、ハス」と告げようした。
叶わなかった。
ハスの背中から、剣が貫通してるのがみえたから。

「り、りー…」

「はっ、ハス!!」

繋がれていた手はほどかれ、冷たい空気の気温を感じとる。

「りりー、にげて。ここから。りりー、にげて、はやく」

「そんなの、無理よ…!あなたがいない世界に、生きてる意味なんてない!」

「お、ねが…。にげ…り、りー」

「いや、いや!!私を、置いていかないでよ、ハス!ひとりに、しないでえぇっ」

涙があふれる。目の前がみえない。
ハスが、みたいのに。彼を、最後まで見届けたいのに。

ーー最後まで見届けたいのに。

「…………い……きろ。ぼ…くの……り、りーーーーー」

「…ぁ」

膝の上の彼が軽くなる。重くなる。血が溢れて、とまる。
涙で見えないけど、彼は見える。彼しか見えない。

彼ってだれだ。どうなったっけ。死んで、死んで、だから、逃げろって。

逃げる、にげるってだれから。だれからだれからだれからだれからだれから。

ダレカラ?

「ぅ、あ」

「おい、死んだぞこいつ。いいのか?それに、この魔女さんも連れてかえならないとなんだろ?」

「大丈夫だろ。元々殺す予定だったんだ。変わらねぇよ」

こいつらは、何を喋っているのか。

「…ごめん、ごめんね、ハス。わたし、あなたに何もできなかった。ーー愛してるわ」

そういい、彼の冷たくなった唇に口つけをして、目を閉じさせて。
そして、もう一度目を見開いた後、その瞳には怒りと悲しみと殺意で複雑な色に染まっていた。

「ぅわあああぁぁ!!!」

近くにいたそいつを力一杯なぎ倒し、走る。
走って、走って、彼を殺したその人たちの慌てた声がきこえなくなるまで走って、森に入って、

そして、泣いた。

月に照らされた涙は銀色だった。
ぽろぽろと止まることを知らない涙はつきることなく溢れ続ける。

魔女、リリーは、もう幸せを諦めた。