コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- Re: 金色の魔女とオオカミ ( No.61 )
- 日時: 2015/12/01 21:05
- 名前: ぱすてる∞ (ID: Q.pGZPl6)
#28 『心』の試験、受験者シュガー
甘い匂いをかぎとり、柔らかな日差しを浴びながら原っぱから体を起こした。
青空は、遠くて、透き通っていて、きれいで。
その瞳にきらきらと青空を写しながら、立ち上がる。
「この匂い…。ホットケーキだっ!」
『三時のおやつはシュガーの好きなものにしてあげる』そう言って微笑んでくれた母の顔を思い出す。
とたんに顔を明るくし、ぱたぱたと駆けていくアホ面。
それが、自分の物だと思い出すのに、随分と時間をかけてしまった。
「ここは、あなた、シュガーの過去の世界でーす。時はシュガーがまだ六歳の時」
いつの間にか隣にいたフーラが、人差し指を立てて説明をしてくれる。
過去の世界、言われてもピンとこないが、これが『試験』なのだろう。
「ーーー。ーー?」
それじゃあ、これが試験なの?ときこうして、その違和感に気づく。
声が、でない。
驚いて口に触れようとして、また驚く。
手が、口が、足が。からだが、存在していないのだ。
驚きで声をあげようにも、声をだす口がない。
「あなたは今、魂だけでこの空間に存在しているのでぇーす。ま、試験が終わったらなおるから安心しなよ」
ほっ、と魂だけで落ち着いたあと、すぐさま意識を過去に切り替える。
シュガーと母が楽しそうにホットケーキを食べているところだ。
今は亡き母の姿に、ない胸が痛む。
「えぇっと?あの事件が始まるまで、あと十時間。時を進めよう」
そう言いながら、フーラは手をだして、右から左へとスライドさせた。
それに呼応するように、目の前の空間がくるくると変わっていく。
太陽が落ちて、月が輝き始めた時刻になった。
そこまでされて、ようやくあの悲劇のことを思い出した。
まさか、あの事件ってーー!!?
人生の中での一番の最悪の思い出。
思い出したくなくて、ずっとずっと心の奥にしまいこんでいた、昔の記憶。
いやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだ!!!!!!
やめて!!あのことを、あの事件を!!思い出させないで!!
声はでず、思いは伝わらない。
「さあ、シュガー。これがあなたの認めるべき過去なんだよ。今まで知らぬふりをし続けた君は、いったいどんな反応をするんだろうね?」
楽しそうに、愉快そうに、残酷に笑うフーラが、悪魔の顔にしかみえなかった。
でない声で叫びながら、ない手で頭をかきむしりながら、ない目で涙をあふれさしながら、シュガーは過去を受け入れずにいた。
◇◇◇◇
幼シュガーは母と一緒に寝ていた。
しかし、寝苦しさを覚えて、体をおこす。
夜だというのに明るい光。冬だというのに汗をかくほどの異常な暑さ。
なにかがおかしい。幼いながらもその事に気づき、ベッドから降りた。
「誰か、いるの…?」
怯えた声で、そっとドアを開いて、シュガーは地獄をみた。
「あ、ぁ?え、これ、どうなって……?え?」
目の前の状況を理解できず、頭をかかえて座り込んでしまう。
火で包まれたリビング。
そして、ドアのまわりをくるりと囲むようにしている、黒い人達。
黒い人達は銃口をこちらに向けていた。
「コイツが、魔女の子か。忌ま忌ましい、魔女め。世界の害虫め。汚れた血め。お前なんかが、生きていていい世界ではないんだよ。さぁさあーー」
立て続けに酷い言葉ばかりをかけられ、幼い子供が腕をかかえて泣き出してしまうのは当然だった。極め付きはーー
「死ね。死んで、この世界に謝るんだ。魔女の子め」
にやり、と不敵にを笑い、その銃の引き金をゆっくりとひいてーー。
「私の娘に、言いたい放題ね。どういうつもりなのか、聞かせてもらっていいです?」
キャラメル色の髪をゆらし、シュガーの母、ラフィーが剣の先を男の首もとにつきつけていた。
「おぉ、これはこれは、ラフィー様ではないですかぁ?いやぁ、お久しぶりですねえ。息災であられましたか?」
気雑多らしく前髪をかきあげる仕草に、思わずシュガーは嘔吐感を覚えた。
「ふん。分かってていたんでしょ、何もかも。シュガーの事も、私の事も」
目の前に立ちはだかるラフィーに、シュガーは何がなんだか分からない、といいたげな顔で黒い男と母の顔の間で視線をさまよわしていた。