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Re: 金色の魔女とオオカミ ( No.63 )
日時: 2015/12/04 21:17
名前: ぱすてる∞ (ID: Q.pGZPl6)

#30 バカみたい

「ーーあ」

膝に顔を埋めて、ウルフが目覚めるのを待っていると、ウルフはシュガーの試験終了後から一時間ほどして目覚めた。

「どう、だった?」

シュガーの問いかけに、ウルフはゆるゆると首をふる。

「わたしも、ダメだった」

その答えに、ウルフは瞳に失望の色を浮かばせた。
期待をされていた事への嬉しい気持ちと、自分も不合格だったくせに人の失敗をみて失望する事への怒りの気持ち。
複雑な感情を持ちながら、ウルフに話しかける。

「それじゃあ、戻ろう。ラユが、心配してるし。お腹もすいた」

そう言って無理矢理に笑顔をむけると、ウルフはあろうことか大きくため息をついた。
ウルフが今は試験終了すぐだから、まだ気持ちが落ち着いていないだろうと気を使って、無理矢理普段通りに接したつもりだった。なのに。

「ーーなんなの、ウルフ」

感情の凍えた声がこだまする。

ウルフは静かにこちらを見据えていた。
その何もかもを分かっているような表情が、いつもならたくましく見えるのに、今は憎たらしくて仕方ない。

「お前は、よくいつも通りでいられるよな」

「……どういうこと」

呆れたように告げるウルフの態度に、苛立ちを覚える。
この人は、なにも分かっていないのか。
そう思い、聞き返さずにはいられなかった。

「いつもへらへらしてて、イラつくってことだよ。お前が試験で何を見たのかは知らねぇがよ。不合格だったんなら、もう少し落ち込むのが普通じゃねぇのか」

明らかに皮肉をこめながら、瞳を鋭くして見据えてくる。

「ウルフは、何も分かってないんだね」

「あ?」

「わたしがーー。わたしが、なんにも考えずにあなたを待っていたと思ってるの?何にも、何にも、何一つ分かってないんだね?」

「ーーおい」

ウルフが止めるのも聞かず、感情にまかせてまくしたてる。
先に仕掛けたのはそっちだ。
それで、どうしてウルフが止められよう。

「わたし、ちゃんと考えてた。辛い過去とどうしたら向き合えるのかなって、苦しくて悲しくて辛いけど、ちゃんと考えてたんだよ?
少なくとも、だれかの悪口を言ったりなんか、しなかったよ」

「ふざ、けんな」

「ふざけてなんかない。ふざけてるのは、そっちじゃない。目が覚めて、いきなり人を攻め立てて。カッコ悪いし、きらい。
ただのやつあたりじゃない。人の悪口を考える前に、自分の反省点を探したらどうなの?」

「オレはーー!!!」

「何も、分かってない。考えてない。バカみたい。バカみたいバカみたいバカみたい。バカ。本当に、すごく、バカ」

そう言うシュガーの瞳に、ウルフは写っていない。
地面のただいってんをひたすらに見つめていた。

とうとうウルフも怒りが頂点に達し、勢いよく立ち上がった。
強きなウルフに、決してシュガーもひるまない。

「辛かったのが自分だけだったなんて、思うなよ…!オレだって、辛かった。それで終わったらお前がいて、能天気に笑うんだ。人の気持ちってのがわかんねぇのかよ…!」

「分かってたから、笑ったんだよ…!気を使って、無理矢理笑ったの。なのにーー」

「そうやってぴーぴー騒いでること事態が考えてねぇっつってんだ!お前は、いつもそうだったよ!何の知恵もないくせにでしゃばって!自分の身すら守れないくせに危険を選んで!それで、オレが全部悪いってのか?あぁ!?いい加減にしろぉ!!」

近くにあった壁に拳をたたきつけて、壁が少し壊れた。

「そんなことをいってるんじゃない!!わたしはっ、ウルフがこっちの気持ちを考えなさすぎるっていってるの!」

「お前も、お前もじゃねぇか!!人の事ばっかり悪いように言うんじゃねえよ!」

「うるさい!!何も知らないくせに、何も分かんないくせに、何も考えてないくせに…!!」

「うるさいのは、てめえだよシュガー!!それ以上何かしゃべったら殺すぞお前…!」

「はっ!?意味わかんない!最初にしかけたのはそっちでしょ!?なのになんでわたしが黙らないといけないわけ?」

「うるさいって、いってんだろうがぁ!!」

ウルフが、勢いまかせにシュガーに突っ込む。
金色の髪が空気を舞う。
シュガーはウルフにされるがまま。受け身もとれずに倒れこむ。

「何するーー!!かっ」

何するの、と続けようとしたが、それはウルフに首をしめられ言えなかった。
手を退けようとするが、シュガーの握力ではウルフをどけることなど不可能だった。
意識がしだいに遠くなり、目の前が白くなっていく。

喧嘩して死んじゃうだなんて、バカみたい。
わたしもウルフも、バカみたい。

そう思いながら、目を閉じてーー。

「くっ!?」

手の甲から、赤い光が溢れ出す。
その光はしだいに輪郭をつくっていき、光が消える頃にはーー。

「殺し合いは禁止って、契約のはずなんだけど」

子猫が、穏やかな声のまま、かすかに怒りを混じらせて二人の喧嘩を止めたのだった。