コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- Re: ずっと、手を離さない儘。 ( No.5 )
- 日時: 2015/10/23 20:50
- 名前: 哀霧 (ID: xyOqXR/L)
壱
私は果たして幸せと言えるのだろうか。
其れはまあ、世界に数多く居る難民の方々等よりは余程幸せなのだろうが、
毎日此れと言って嬉しい事も無いし、将来が保証されて居る訳でも無い。
全てが決まった順風満帆を望む訳では無いが、流石に此れは味気無いかと・・・
私は、早朝から妄想に耽って居た。
朝日で心地良く温まった布団に胡坐を掻き、悶々と考えて居たのだ。
前記の通り、私は幸せなのだろうか、と。
途轍もなく突拍子も無い事だが、不図気になったのだ。
結局、貴重な朝の時間を削って辿り着いた結論はこうだった。
「私は幸せだが、其れが当たり前になって気付いて居ないだけだ」
あまり腑に落ちてはいないが、時間が無いので今日は此れで良しとする。
また、機会が有れば考えようと思う。
「香乃佳、起きてるでしょ?」
母に呼ばれ、リビングに向かう。
質素な朝食を食べ、身支度をして自身の通う学校へと足を運ぶ。
家から歩いて五分も掛からない小学校は、受験も何も要らない市立校だった。
今日も一番乗り。
誰の気配も無い教室の扉を開け、机に着く。
春とは言えまだ寒い教室で、悴む手を擦りながら人を待つ。
途端に、煩い足音が廊下に響き、勢い良くドアが開く。
「おっはよー、香乃佳ーっ!」
扉から走り、私の背中を叩いて挨拶をする、
私の親友、琴瀬美杏。
「朝からハイテンションだね、其の元気をもっと他に使えよ」
さり気無く肩から彼女の手を払い除け、背の高い美杏を見上げる。
同じ女からの目線でも美しいと思える整った顔立ち。
艶の有る黒い髪は、綺麗な青色のゴムで纏められている。
「え、今日体育有るから其れに使えって?」
黙った儘首肯で返す。
「ばっかだなぁ香乃佳は。此の私が体育に使う体力を残して無い訳無いじゃん」
「あーはいはい。良いから準備しなよ、暑苦しい」
別に暑い訳でも無かったのだが、構わず美杏を追い払う。
「はーい、承知しました、香乃佳様っ」
皮肉を吐き捨てながら、私の斜め後ろの席にすとんと座る。
何時もの様に皮肉を言い合う私と美杏の、
出会いは少し変わった物だった。