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Re: ずっと、手を離さない儘。 ( No.8 )
日時: 2015/10/29 20:49
名前: 哀霧 (ID: xyOqXR/L)

曇天の其の日、私は家出をした。

幼き日の私の、突飛な思い出。

些細な事で親に叱られて、其れが気に入らなくて—

と言う、余りにも矮小且つ自分勝手な理由でだった。

親に黙って家を飛び出して、一人静かな公園で遊んだ。

新しい事をしてみたのが、嬉しくて楽しくて堪らなかった。

飛蝗の様に跳ね回り、時はあっと言う間に過ぎる。

気が付いた時には、雲は重く垂れ下がり、辺りは暗く澱んでいた。

時間にして約四時間。

楽しかった筈だったのに、唐突に途轍もない不安が押し寄せて来た。

此れから私は如何するんだ?

お母さん達にはもう会えないのか?

自分の行動が招いた結果だとは、痛い程に理解出来て居た。

其れでも、私は家へと歩む事が出来なかった。

何もしない儘、暗黒の中で蹲る。

不安は小さな身体から溢れ出す。

私は泣き始めた。

溜め込んだ不安を全て吐き出す様に、

只泣いて哭いて泣き喚いた。

誰彼構わず慟哭して居た私は、

街行く人々に嫌な目で見られた。

視線、視線、視線。

数多の視線が私に突き刺さり、貫いて行く。

滔々雲は雨を降らせ、私は涙と雨で濡れて行く。

そんな中で、

「ねえ、大丈夫?」

桃色の傘が、私の頭上に掲げられた。

顔を上げると、私と同じ位の歳の少女が、澄んだ目で私を見下ろして居た。

暖かそうなコートからは財布が覗き、手には近くの店の袋が下がって居る。

答えられない私に、少女はまた繰り返す。

「ねえ、大丈夫?」

「う・・んっ」

慌てて涙を拭い、何とか質問に答える。

「名前、何て言うの?」

「漣、香乃佳・・・。」

掠れ声で言うと、少女は笑う。

「私は美杏。ねえ、友達になろ?」

そう言って、小さな手を差し出す。

成長した今では素直に言えなくなった言葉。

当時は普通の事の様に、友達になれと要求する事が出来て居たのだ。

「有難う、・・宜しくね、美杏ちゃん」

家出をした少女と、手を差し伸べた少女。

余りにも突飛な、私と美杏の出会いだった。