コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- Re: 君ヲ愛スル。 ( No.4 )
- 日時: 2015/09/18 14:31
- 名前: 氷優。 ◆oR8MhqCGDo (ID: UIcegVGm)
【第1章 彼と大雨。】
びしょ濡れの私は、家に帰るつもりはなかった。
気になる人を、探しているんだ。別に恋をしている訳ではない。ただ、クラスでも気になっている人。
その人は、下校中に見かける度〝ある場所〟へ必ず行っている。確信してはいないのだけれど。
「あ……見付けた。」
濡れた為額にくっついた前髪を右に分け、私は呟いた。
小さな公園の隅に置かれた、使い古したベンチ。そこに、私の探していた人は座っている。
その人は、私と同じ2年C組の——蒼柳 夏目君という。蒼柳君は、少し苦しそうに俯いていた。
私は迷わず、蒼柳君の方へと足を進めた。
公園の土は泥々になっていて、気持ちが悪い。でもそんな事、今はどうでも良かった。
私は早く、一刻も早く、彼の元へ行きたかった。
「……傘、要らないの?」
「……誰お前。」
「同じクラスの咲椰。酷いね、誰とか。」
「…………」
会話が、続かない。短くて酷い言葉を発した彼は、その後口を開こうとしない。
私はこの謎に満ち溢れた彼に、興味がある。この人に近付きたいと、今強く思っている。
〝此方、向いて。〟
そう言えたなら、どんなに良かっただろうか。
でも私には無理で、ただただ黙る事しか出来なかった。
それでも私は拳を握り締めた後、閉じたビニール傘を開いて彼を雨から守った。
「風邪、引くよ。」
「お前も引くよ。馬鹿じゃねえの。」
「うん。でも私は良いから。傘、受け取って。」
「……要らない。」
「早く。」
「要らないっつってんじゃん。俺に関わるな。」
私が差し出した傘は、彼が弾いた為泥の上に落ちた。
ビニール傘は汚く茶色に汚れか傘が弾かれた弾みで一緒に倒れた私も、泥だらけだった。
スカートも鞄も傘も、皆、汚い。けれど私は歯を喰い縛って、立ち上がった。
「俺に近寄んな。帰れよ。」
ナイフのように鋭い目付きで、私を睨む。
拍子に目が合った時、私は気付いてしまった。
彼のナイフのような鋭い目からも、大雨が降っている事を。
だから私は放っておけなくて。泥だらけの手を差し出して、彼に言った。
「関わらないとか、無理だから。蒼柳君の雨が止むまで、傍にいるから。」
ああ、逆効果だった。彼の雨は、更に降り出した。