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Re:    君ヲ愛スル。    ( No.10 )
日時: 2015/09/20 22:49
名前: 氷優。 ◆oR8MhqCGDo (ID: UIcegVGm)




【第1章 彼と大雨。】



暫くぼーっとしていた。
傘を翳したまま、私だけは雨に撃たれて突っ立っている。彼はベンチを軽く軋ませ、また俯く。
彼は泣き止んだのか、涙はぴたりと止まって、涙により濡れた白い肌は乾いていた。



「……寒。」



彼が、小さな声を漏らした。
たった一言言った彼は、大きな身体をちぢこませて右腕を左手で擦っている。
6月になりいくら雨が降って、むしむししていても、こんな大雨に撃たれたら寒いに決まってる。

私は小刻みに震える彼の隣に、腰を下ろした。
まだ彼は私に心を開いてくれなくて、横にずれ隣に座った私から少しだけ離れた。
その彼の何気無い行動に、一瞬だけチクリと胸が痛む。絶対にこんな事、彼に知られたくないけれど。



「家まで、送ってこうか?」
「……お前は?」
「え、私……? なんで私まで。」
「お前も寒そう。」
「さ、寒くないよ。全然寒くない!」
「良いから。取り敢えず、うち寄ってけば。」



目は合わせてくれなかったけれど、確かに優しさを感じた。
彼の家に行ける事をきっかけに、あの涙の理由や人を恐れている理由を、聞き出そう。
でも、彼が口を開くまで私は、余計な事を口にしない方が良いだろう。——そう、大雨に誓った。

彼は私から傘を奪い取る。
それから立ち上がると、私の腕を掴み自分の方へと引き寄せた。
「うわ、」と小さな声を上げた私を他所に、彼は私に傘を翳して歩き出した。


初めて、こんなに近付いた距離。
心臓の音。吸って吐き出した息。足音。独り言とか。



「全部、聞こえちゃうじゃん……?」



でも、貴方になら。