コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ

〜第二章 A to K④〜 ( No.12 )
日時: 2015/09/21 21:07
名前: ストレージャ (ID: 5NmcvsDT)




■□■□■□CLUB



「じゃあね、愛一、某S君」
「やめろよそれ……」

 分かれ道を過ぎる。
 愛一は女の子らしくいつまでも手を振っているけど、商五はじゃあな、と一言だけ残して振り返らずに歩いていく。

 時刻は午後六時、太陽は恣意的と言って良いほどに、世界に置かれたもの全ての影を伸ばしていく。
 夜に向けて、人間の影も深くなる。

 愛一と商五、二人の姿が見えなくなっても、私はそこに立っていた。



 ——ジョーカー。
 創士が昔から、何かと口にしていた言葉。
 だらだらと、重い足を運んでいく。
 愛一が勘違いしそうだから一応言っておくけれど、これは比喩であって、本当に重い訳ではない。
 私は決して重量級じゃない。決して。


 家に着くまで、ずっと考えていた。今までのこと、これからのこと。


 ごく普通の一軒家が、私を出迎える。
 そこに特徴があるとすれば、母の趣味であるガーデニングのおかげで、庭が華やかに彩られている、くらいだろう。それも別に、たいしたことではない。
 ドアを引くと、施錠されたままのドアが音を立てる。

 ドアを開けるために母が階段を下りてくる音が聞こえたが、それより先に、ポケットの中の鍵を使った。
「あら、おかえりなさい」
 私は素っ気なくただいまを言い、手を洗ってから、自分の部屋に入った。



 お気に入りの本が立ち並ぶ木製の本棚の上に、大好きなシロクマのマー君が、いつも崩さぬ微笑み顔で佇んでいる。
 それとは対照的に、少しむすっとした顔の私が写った、何枚かの写真が、机の前の窓に立てかけてある。

 部屋は全体的に白い。クリーム色の照明が、明るく部屋を照らしている。


 鞄を掛けて、ベッドに思いっきり飛び込んだ。
 ふかふかと柔らかい雲の海の中に、私は、沈んでいく。




 僅かな記憶は、気付かぬ間に虚空に消えていった。