コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ

Re:   聖愛戦争。 <Chapter 1 更新中> ( No.13 )
日時: 2015/09/21 20:58
名前: 村雨 ◆nRqo9c/.Kg (ID: HTruCSoB)




 集合時間は午後五時。女子メンバーで駅前のコンビニで一旦待ち合わせをした後、電車に乗って会場であるファミレスに向かう。
 女子の参加者は三人。私と早川聡美と、あと一人の名前は五十嵐マリナだ。同じクラスとはいえ、今まで二人と話したことはなかったけれど、コンビニで待ち合わせてからファミレスに到着するまでの数十分の間に何となく話は弾み、お互いを下の名前で呼び合う程度に仲良くなった。

 話を聞くと、早川聡美の中学のときの友人で理数科に速水という男子がいて、彼が彼女に合コンをしようと持ちかけたのがことの始まりらしい。
「速水のやつ、凄く彼女欲しがってて」

 クラスの学級委員長でもある早川聡美は、出来の悪い息子を哀れむ母親のようにも見えた。ショートカットの髪の毛がさらさらと揺れる。彼女の服装はTシャツにスキニージーンズというカジュアルな服装で、可愛くしようと思えばいくらでもできそうだったけど、本人が今の格好を気に入っているようだったので黙っておく。

「それってー、まさかの野獣系!?」
 五十嵐マリナが横から口を挟む。大きなつけまつげが彼女の瞬きとともに上下に動く。彼女は茶色く染めた髪をウェーブさせ、タイトスカートを履き、ギャルみたいな喋り方をする。きっとメールの早打ちとか得意なんだろうな。

「うんうん、ある意味野獣だね、あれは」
「うっそー、超ヤバイんですけど!」
 彼女の言う「ヤバイ」は良い意味なのだろうか、それとも悪い意味なのだろうか。

 私は二人を交互に見て、足して二で割るとちょうど良い感じになるのではないかとか考えていた。


 私たちがファミレスに着いた時には、男子三人は既に席に着いていた。
 ファミレスの中は黄緑色の壁紙を始めとして淡く落ち着いた色合いで統一されていた。四角いテーブルが二十個ほど置いてあり、彼らの座っている席は四人掛けテーブルに二人掛けを合体させたものだった。通路側の三脚の椅子がぽっかり口を開けて私たちを待っている。

 一番右端の椅子に座ると、まず正面の人と目が合った。
 あ、美男子。彫りが深くて目鼻立ちがはっきりしている。彼がにこりと笑うと白い歯が見えた。

「やばい超イケメンじゃん」
 左端に座った五十嵐マリナがすかさず黄色い声を上げた。

「本当? どうもー」
 即座に笑顔で対応する美男子。彼女のギャル言葉や遠慮のない物言いに戸惑う素振りも見せない。


 暖色の暖かい照明が六人を照らしている。店員のお兄さんが、私たちのテーブルに水を置いていく。とりあえず各々料理を注文して、簡単な自己紹介が始まった。

 正面の美男子が、じゃあ最初は俺から……と言って立ち上がり、はきはきと喋った。この人が噂の速水くんらしい。つまり、彼がこの合コンの言いだしっぺということか。
 彼が座ると、続いて左隣の男子が立ち上がる。根岸くんという苗字のその人は明らかに緊張していて、言葉の随所に「えっと」と挟まずにはいられないようだった。聞いている全員が生温かい目で彼を見守る。小柄で短髪で、顔はつぶらな瞳をした柴犬みたい。嫌いな感じではないな、と思った。
 根岸くんの話が終わると、そのまた隣の黒縁眼鏡を掛けた男子が空気の抜けた独特の口調で話し出したので、その場は和やかな空気に包まれた。

 それから五十嵐マリナ、続いて早川聡美の番になる。自分の番が近づくにつれて、身体がずしりと重くなっていくのを感じた。鼓動が速く、思考回路が鈍くなる。私は緊張しているのだ。その理由は分かりきっていた。男子慣れしていないせいだ!
 私は普段、ほとんど女子に囲まれて過ごしている。そのため、敢えて男子と関わらなくともそれなりに充実した高校生活を送れてしまうのだ。そんな私が、初対面の男子──しかも複数──を相手にして喋るなんて、日常からかけ離れたこと。ああ、こんなに緊張するくらいだったらクラスにかろうじている数人の男子とでも、仲良くなっておくべきだった。でも今更どうしようもない。
 自分の番がやってくる。私は早川聡美に促されて立ち上がった。

「あ、えーっと、三木愛っていいます。『愛』って書いて『めぐみ』って読むんですけど……」

 あらかじめ決めておいた台詞を口にする。あれ、でも今ふと思ったんだけど本当にこれで良いのかな。自分の名前にまつわる話をすると印象に残りやすいと書いてあるネットの記事があったと思うんだけど、第一、誰も私の名前に興味なんてないんじゃないのか。でも、もう口に出してしまった以上撤回するわけにもいかない。どうしよう。とりあえずこの場を収めなければ。

「…………と、とりあえず今日は宜しくお願いします!」

 半ば強引にまとめて席に座る。すると速水くん「よろしくー」と声を掛けられた。顔、あんまり赤くなってませんように。
 その時ちょうど料理が運ばれてきて、皆の視線は店員のお兄さんが持つボンゴレに注がれた。

Re:   聖愛戦争。 <Chapter 1 更新中> ( No.14 )
日時: 2015/09/23 10:04
名前: 村雨 ◆nRqo9c/.Kg (ID: HTruCSoB)




 自己紹介が終わり、注文した料理が運ばれてきてからも僕の心臓は激しく音を立てていた。だって、テーブルを隔てたすぐ傍に女子がいるのだから。

 今から十分ほど前に行われた自己紹介でも勿論緊張していて、僕は上手く話すことが出来なかった。持ち前の爽やかな笑顔を十二分に発揮した速水や、「どもー、相本潤也でーす。映画研究部の部長とかやってまーす」と昔の漫才師のように自己紹介して、周りの空気を柔らかくした部長が羨ましい。

 速水と部長の間に座った僕は、情けないかなその後の会話にも積極的に入ることが出来ずに時折相槌を打つのが精一杯だった。

 女子三人は身体の線が滑らかで、当然だが男子とはどこか雰囲気が違っている。僕の正面に座っているのは早川さんというショートヘアの細身な人で、速水の中学のときからの友人らしい。僕も同じ中学だったのだが、彼女のことはあまり知らない。彼女は気さくに喋り、時々気を遣って僕に話を振ってくれる。
 向かい側の右端は、五十嵐さんという人だ。校則違反であるにも関わらず髪を明るい茶色に染めている彼女は学校で目立つ存在で、クラスは違えど顔は何となく知っていた。すぐ近くにいるのに、僕とは住んでいる世界がまるで違うように思えた。

 一方の左端の女子は、三木さん。三木愛さん。「愛」と書いて「めぐみ」と読むのだと、さっき彼女が言っていた。
 僕は彼女を一目見て、可愛い人だなと思った。アーモンドのように大きな瞳に、色白の肌。笑うと花が咲いたみたいだった。彼女は白いトップスにふんわりとした紺色のスカートを履いていて、化粧のせいかほんのり頬が紅い。
 それだけなら単に高嶺の花で終わってしまいそうなのだが、彼女の自己紹介のときの様子を見る限り、どうやらメンタルの弱さは僕と大して変わらないようだ。そう思うと途端に親近感が湧いてきた。

 とはいえ、実際に彼女と視線が合いそうになると思わずはっとなって逸らしてしまう。そして目の前のボンゴレを少しずつ口に運んでいった。

 その時僕は一人でひっそりと後悔していることがあった。女子と上手く話せないことも勿論そうなのだが、どうもこの料理が口に合わないのである。何となく浮ついた気持ちになって、知りもしない名前の料理を頼んだのが悪かったんだ。まさかボンゴレがあさりのパスタだなんて。僕はあさりが大の苦手なのに!

 でも、だからといって残すわけにもいかない。僕は我慢してボンゴレを食べ進める。途中で、ドリンクバーのコーラをおかわりするために何度か席を立った。