コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- Re: 聖愛戦争。 <Chapter 1 更新中> ( No.18 )
- 日時: 2015/09/23 14:59
- 名前: 村雨 ◆nRqo9c/.Kg (ID: HTruCSoB)
◇
合コンはおおむね和やかな雰囲気のまま進行した。私はドリンクバーで取ったオレンジジュース片手に、この会を楽しんだ。
でも、気になることが一つあった。速水くんとよく目が合う気がする。正面に座っているのだからある程度は仕方ないのかもしれないけれど、それにしても多い。あ、ほらまた。
……大丈夫、私はちゃんと下調べをしてきたのだから。合コンでモテるには……そう、笑顔だ。とりあえず笑っておこう。にこーっ。私は口角を上げて数秒間相手を見つめた。
それから頭をフル回転させる。合コンで良い印象を持たれるためには、相手を褒めることが大切なのだというネットの記事があったことを思い出した。むむ、そういえばまだ実践していない。
私がそんなことを考えている間にもめまぐるしく話題は移り変わっていく。今は、男子が理数科、女子が家政科ということで家政科は料理が得意なのかとか、理数科は計算が速いのかとか素朴な疑問をぶつけ合っていた。
「理数科って実験やら演習やらで忙しいんだよなー。課題も多いし」
私は理数科に知り合いなんていないので、彼らの事情はあまり詳しくない。そういう意味では新鮮だった。実験って、白衣とか着るのだろうか。何か凄そう。私の頭には、初老のおじさんが口元に怪しげな笑みを浮かべつつ試験管の中身を凝視している、そんな光景が浮かんできた。これってまるで──今だ! 相手を褒める絶好の機会! 私は大きく息を吸う。
「マッドサイエンティストみたいだねー。あはははは」
しかし、予想に反してその場は微妙な空気になった。早川聡美が隣で苦笑いし、黒縁眼鏡の男子が私から目を逸らす。背筋がひやりとした。あれれ? 想定と違うな。うん。褒めるって難しい。
「三木さんって面白いねー!」
速水君がフォローしてくれるのも、何だか逆に恥ずかしくなった。
その後も私は「家政科クラスでは、会話の中に下ネタが飛び交っている」などとしなくても良い暴露話をしたりして、その場を変な空気にさせたりしてしまった。男子を目の前にすると、どうしても力んでしまうようだ。女子の前だと平気で言える冗談さえ、口に出すのをためらってしまう。
しばらくして皆の話題は漫画に移り、それにめっぽう疎い私は時々うんうんと頷くことしかできない。でも失言のしようもないので、一方で安心もしていた。
「でもやっぱり一番好きなのは『スリムダンク』かなあ」
早川聡美が言う。
「あ、それ、僕も好き! ……です」
お、柴犬くんが喋った。さっきから下を向いて黙々とボンゴレを食べていた柴犬くんが。
「そうなの?」
「え、えっと、スリムになるためにバスケを通じて数ある試練を乗り越えていく主人公が……とっても魅力的で、メンタルの弱いところとか、凄く共感して……」
彼が息を吐く度に緊張しているのが伝わってきて、それでも頑張って続けようとする姿がぎこちなく健気でもあり、私はつい笑ってしまった。私と同じようにあたふたしているだけなのに、こんなに面白いなんてずるいなと思った。
「試合のシーンとか白熱だよなー。俺もバスケ部なんだけど、凄い感動した」
速水くんが口を挟む。
「え、速水くんってバスケ部なの? 超ウケる」
「そうそう、でもうちのバスケ部って結構強くて。だから練習とか大変でー」
けれどいつの間にか、会話は話の得意な美男子を中心に回っていた。斜め前の男子は明らかにあがり症だし、眼鏡の男子は積極的に話すわけではなく聞き役に徹している。速水くんが自分を引き立たせるために他の二人を連れてきたのかと思うくらいだった。
彼に話を持っていかれた斜め前の男子は、心なしかしゅんとしているように見える。益々柴犬みたいだ。飼い主に怒られてしょげている柴犬。
注文したドリアを食べ終わり、ドリンクバーで二杯目のオレンジジュースを取ってから席に戻ると、柴犬くんの姿がなかった。どうやら腹痛でトイレに走っていったらしい。さっき大皿いっぱいのボンゴレを頬張っていたことを考えると、食べ過ぎたんじゃないかなと心配になる。彼がいなくても会話は以前と変わらず盛り上がっていたけれど、それまで彼の反応を一人で楽しんでいた私は、少し残念に感じた。
ちらりと腕時計を見る。針は六時半を指していた。うちは門限が七時なのだ。もうそろそろ帰らないと。
これである意味解放される、と思った。いや、楽しかったけどさ。どうしても気分が落ち着かない。やはり男子に対する免疫がないせいだろう。私はオレンジジュースを飲みほしてから事情を説明し、自分が食べた分の代金を机に置いて、席を立った。
「というわけで先に失礼しまーす」
すると、ほぼ同時に向かいの速水くんも席を立った。
「駅まで送っていこうか」