コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ

Re:   聖愛戦争。 <Chapter 2 更新中> ( No.34 )
日時: 2015/09/29 21:15
名前: 村雨 ◆nRqo9c/.Kg (ID: HTruCSoB)




 合コンの翌日、朝電車の中でスマホを開くと速水くんからメールが届いていた。昨日は楽しかったね、またメールするかもしれないからよろしく。という趣旨の内容だった。絵文字はないけれど最後にビックリマークが付いている。男子のメールってこんな感じなのか。割とシンプル。
 さて、それはともかく返信をしておかねば。送信された時間は昨日の夜十時だった。スマホで「メール 返信 モテる 女」で検索してあれこれ調べてみたけれど、それだけでは心もとないので、学校に着いたら誰かに意見を仰ぐことにしようと決めた。

「おっはよー!」

 教室に着いて教科書やノートを机の中にしまっていると、すぐそばにマリナがやってきた。スカートは規定の長さよりかなり短くされていて、ともすれば下着が見えてしまうのではないかと冷や冷やする。それに今日はさすがにつけまつげを付けていないけれど、相変わらずキャラメルみたいなライトブラウンの髪はよく目立っていた。

「あ、昨日はどーも」

「あはは、めぐちゃんがあんなに空気の読めない人だとは知らなかったよー!」
 マリナは少しも悪びれずに言う。私の脳裏に、昨日の自分のおぞましい失言がフラッシュバックした。でも、歯に衣着せぬ物言いをする彼女にそんなことを言われるなんて。

「だってあの時は緊張してたから……」

「マジで!? 意外と緊張するタイプなんだねー。……てゆーか、あの後どうだったの!?」
 マリナは前のめりになる。

「あの後って?」
「ちょ、とぼけんなし! 野獣系速水くんに駅まで送ってもらったんでしょ!? 何もなかったとは言わせませんけど!」
「ちょっと待って。声が大きいってば」

 とぼけてこの場をやり過ごす作戦は上手くいかなさそうだ。とはいえクラスに女子が多いせいか、誰と誰が付き合っているとか、はたまた別れたんじゃないかとかいう噂は光の速さで広まってしまう。今だって、近くで駄弁っていた女子三人組が耳をそばだてているのが分かる。

私は、彼女にかろうじて聞こえるくらいの声までトーンを落とす。
「別にメルアド交換しただけだから。それ以上は何もないの」

「じゃあH氏とめぐちゃんの今後の進展に期待しとく!」
「い、いや別にそういうのは……」
「何かあったらすぐに報告してねー」

 そうしてマリナは敬礼のポーズを取った。彼女なりに気を遣ってくれたのだろう。さっきより幾分声は小さく、速水くんの名前はイニシャルに変えられている。

「報告、っていうか相談ならあるんだけど」
「お!」

 私は一段と声を潜める。
「例のH氏からメールが来たんだけど、どう返信すれば良いのかな」

 その瞬間、マリナの瞳は少女マンガのヒロインみたいに輝き出し、私は彼女に相談したことを少なからず後悔したのだった。

Re:   聖愛戦争。 <Chapter 2 更新中> ( No.35 )
日時: 2015/10/01 23:22
名前: 村雨 ◆nRqo9c/.Kg (ID: HTruCSoB)




 模造紙に鉛筆で下書きをし、その上を油性ペンでなぞり終えるころには、空き教室の壁時計は五時を過ぎていた。

「ふう、やっと終わったよ」

 僕は息を吐く。
 他の部員たちは既に各々の作業を済ませたようで、教室に残っているのは僕と部長の二人だけだった。床で作業がしやすいように四十ほどある机と椅子は隅に固められ、完成された模造紙があちらこちらに置かれている。教室には夕陽が差し込んできて少し眩しい。

「ねぎしい」
 部長が空気の抜けた声で言う。
「僕はこの文化祭に賭けてるんだ」

 彼はいつになく真剣な表情だった。普段は垂れ目だが、今は獲物を狙う猛禽類のような鋭い目つきをしている。去年はペーペーの一年生だったし、来年はもう受験勉強のために引退している。部長にとっては、これが映画研究部部長として臨む最初で最後の文化祭なのだ。だから何としてでも部活の展示を成功させたいという思いが強いのだろう。
「部長としての責任感を感じてるんだな」

「いや……」
 部長が下を向く。そんなに照れるなよ、とからかおうかと思ったが止めた。ふと彼が顔を上げたからだ。今度は恍惚とした表情に変化している。

「僕は今、恋をしているんだ」

 え、恋?
「だ、誰に? もしかして昨日の合コンで……」
彼が首を横に振ったので、僕は少し安堵した。

「ほら僕、半年前から近所のスーパーでバイトしてるんだけど。そこの同僚で気になる人がいて」
「この学校の生徒?」

「いや、二十七歳で子持ちのシングルマザーだ」

 僕は当惑する。、脳みそがぐらりと揺れる感覚に陥った。
「それは……色々と凄いな」
 何が凄いのか、自分でも具体的にはよく分からない。

「彼女が──延木(のぶき)さんが、明後日の文化祭に来るんだ。だから僕は、どうしても映画研究部の展示を成功させなくちゃ」

 僕は曖昧に相槌を打った。そして無理矢理笑顔を作った。
「合コンになんて参加してる場合じゃないのに」

「いや、でも人の頼みを断ることは僕の信条に反するんだ」
 そうして部長は照れくさそうに言う。西日が当たって、彼の顔をぼんやりと明るく照らした。