コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- Re: 聖愛戦争。 <Chapter 1 更新中> ( No.4 )
- 日時: 2015/09/19 00:20
- 名前: 村雨 ◆nRqo9c/.Kg (ID: HTruCSoB)
「お、来た来た。よお!」
教室に入ると、クラスメートである速水(はやみ)が白い歯を見せながら、気持ち悪いくらい爽やかな笑顔を向けてきた。特等席ともいえる窓際の一番後ろである僕の席は、彼に占領されている。
「そこ、僕の席なんだけど」
速水とは、小学生のころからの知り合いだ。友人、というよりは腐れ縁といったほうがしっくりくる。
「根岸、今日暇だろ?」
そんな彼は僕の台詞を無視して続けた。
「確かに暇だけど、とりあえずそこは僕の席だ」
「合コン行こうぜ」
合コン。
キラキラした響きを持つその言葉に、一瞬面食らう。僕のように教室の隅でひっそりと生きている人間にとっては縁遠い世界だ。第一、僕は女子と会話するのが苦手なのである。
「遠慮しておくよ。僕以外に適任者がいると思うし」
そうして、早くその席を明け渡せとでも言わんばかりに速水の袖を引っ張る。
「それがいねえんだよ! 今は体育総体の三日前なんだぞ。運動部は放課後、汗水垂らして練習しないといけないんだ」
そう言うお前も運動部だろ、と僕は心の中で呟く。
「その上、一週後には文化祭がある。あいにく文化部も忙しい時期だ」
「そうだね。僕も文化部だから、準備手伝わないと」
「その必要はない。さっき部長に許可を取っておいた」
「映画研究部の部長にか!?」
「他に誰がいるんだよ」
速水のやつ、どうやら部長の弱みに付け込んだようだ。
僕が所属する映画研究部の部長は、超の付くお人よしである。見知らぬおじさんの頭に降ってきた鳥の糞を取ってあげたり、ボランティアの演説に心打たれて財布に入っている全財産を募金してしまったりするのだ。そんな部長が、人の頼みを断れるはずがなかった。
「……仕方ないなあ」
「さすが根岸! ノリが良いねえ」
調子の良いことを言うと、速水はようやく僕の席から離れた。
椅子に座り、仮眠を取ろうと思った。昨日夜遅くまで漫画「スリムダンク」を読んでいたせいだ。教室の掛け時計を確認する。よし、ホームルームが始まるまであと二十分はあるな。それまで仮眠を取ろう。僕は机に突っ伏した。目を閉じると、すぐ近くで騒いでいるはずのクラスメートの声が遥か遠くから聞こえてくるような錯覚に陥る。
途端に腹の底からふつふつと笑いがこみ上げてきた。女子と話すのが苦手というのは事実だが、そうしたキラキラした場所に行けるのは嬉しい。凄く嬉しい。速水の気まぐれに巻き込まれたとはいえ、今回ばかりは幸運といって良いかもしれない。