コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- Re: 聖愛戦争。 <Chapter 1 更新中> ( No.7 )
- 日時: 2015/09/22 16:15
- 名前: 村雨 ◆nRqo9c/.Kg (ID: HTruCSoB)
◇
手が震えるような恋の感情を、私はまだ経験したことがない。
恋というものを初めて身近に感じたのは小学校五年生のときだ。というのも、クラスメートの一人が隣のクラスの男子と付き合うことになったらしいのだ。その時はへえ、そうなんだ。と聞き流すにすぎなかった。どこか遠い世界の話に思えた。私にとってクラスの男子なんてただの餓鬼でしかなかったのだ。授業を適当に受けて、休み時間になると一目散に校庭へ駆けていく。教師に隠れて買い食いをしようものなら、一躍ヒーローになれる。
中学に上がり、私立の女子高に進んだ私は、男子という存在が身近にいなくなった。
高校は共学の学校に進学した。ところが私が進学したのは家政科という異常に女子の多い学科だった。一度教室の外に出れば男子なんて沢山いるのだが、学科が違うということもあり、他クラスとの関わりはないに等しい。これでは中学のときと大して変わらないじゃないか。
共学の学校に行けば、自然と恋人ができるものだと思っていた。未だ見ぬ彼氏のためにメイクの練習をした。ファッション雑誌を読んで勉強してみた。なのに、今の私には彼氏どころか異性の友人すらいないのだ。
そんなある日の朝休み、小鳥のような甲高い声が飛び交う教室に、一筋の光が差し込んだ。
「今日理数科の男子と合コンするんだけど、来ない?」
声の主は、同じクラスの早川聡美。
私の通う山が丘高校には、普通科、理数科、家政科と三つの学科がある。理数科というのは、家政科と多少的に男子の比率が極端に高いクラスだ。
早川聡美はメンバー探しに苦労しているようだった。今は文化祭と体育総体を直前に控えているため、運動部も文化部も忙しいのだ。今こそ絶好の機会。逃すまじ。私は席を立ち、これまで二言三言しか会話したことのない早川聡美に歩み寄った。
「ねえ、それ、私行きたい」
帰宅部で何も予定がないのでと伝えると、私より拳二つ分くらい背の高い早川聡美は目を輝かせた。
「三木さん、ありがと! 助かるー!」
決して数少ない出会いを期待して躍起になっている素振りを見せてはいけない。合コンって一回行ってみたかったんだよねーなどと言い繕って、あくまで純粋にイベントを楽しもうとしているように見せかける。
その日、学校が終わったのは四時。私は家に帰るとすぐにパソコンの電源を入れ「合コン モテる 女」と打ち込んで検索した。
- Re: 聖愛戦争。 <Chapter 1 更新中> ( No.8 )
- 日時: 2015/09/20 00:11
- 名前: 村雨 ◆nRqo9c/.Kg (ID: HTruCSoB)
◇
「今から合コンとやらに行くので、晩ご飯はいりません」
授業が終わり、一度家に帰ると僕は叔母さんにそう伝えた。別にわざわざ「合コン」と言わなくても、部活の事情で遅くなるとかなんとかいくらでも言い訳はできたのだが、何だか嘘を吐くのは悪いような気がしたのだ。
「静斗くんが、合コン!?」
叔母さんは目を大きく見開いた。持っていたお盆がするりと滑り落ちる。
「ついに彼女ができるのね! おめでとう! 明日の朝は赤飯にしましょ! そうね、もうそろそろ彼女の一人や二人できてもおかしくないころよね。だって静斗くん、ちょっとシャイだけど、よくみたら昔の渡哲也みたいだもの」
「気が早いですよ叔母さん……」
まず今日の合コンに参加したところで、彼女が出来る保証はないのだ。くれぐれも期待はしないで下さいと言ってから、僕は服を着替えて足早に家を出る。待ち合わせ場所は近所のゲームセンターの前だ。
寂れたゲームセンターの前には、速水とお人好しの映画研究部部長の姿があった。今日の会は三人対三人で行われると聞いていたので、男子のメンバーはこの三人ということになるのだろう。
「おせーぞ、根岸っ」
速水がしかめっ面で言う。集合時間の五分前に着いたのに文句を言われるとは心外だと思った。一方の部長はというと、そんな速水に構わずヘラヘラ笑っている。
「まだ五分前じゃないか」
「こういうときは男が先に行っとくのが流儀だろ」
「まあ二人とも、歩きながらゆっくり話せばいいじゃん」
空気の抜けるような声で、黒縁眼鏡を掛けた部長が仲介する。
三人並んで駅の近くのファミレスを目指して歩き出す。もう陽が傾きかけていて、空は橙色に染まり影はどこまでも長く伸びていた。
それにしても速水は背が高い、と隣で歩いていて思う。横に並んで経つとよく分かる。僕は悲しいかな、速水の肩までの高さしかない。中学まではあまり差はなかったのに。
「速水は日に日にでっかくなるよねー」
僕の心を見透かしたようにそう言う部長。そう言う部長だって、僕より少し背が高い。
「成長期だからな。隣のおちびちゃんと違って」
速水は僕の頭をぐりぐりと撫で、したり顔をする。僕はそんな速水を思い切り睨みつけた。
目的のファミレスが近づいてきた。今から数時間、ここで女子とご飯を食べるのだと思うと、嬉しさより緊張感のほうが強くなってくる。