コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- Re: 旅館『環』においでませ! ( No.4 )
- 日時: 2015/11/08 16:16
- 名前: 夕陽 (ID: rBo/LDwv)
座敷童子との出会い
「とはいってもいきなり帰ってきて驚かれそうだな……」
私は、旅館を継ぐのが面倒くさくて逃げるも同然に大学に行ったような人だ。
今更私がのこのこ帰っても家族を困らせるだけかもしれない。
でも、私の友人たちはほとんど別の県の大学に行きここにはいないから当てはここしかない。
とりあえず三日分の衣服やくしや歯ブラシなど生活に必要なもの、画材、お土産は持ってきた。
段々紫柄から遠のいていくに従って電車やバスに乗っている人は減っていく。
そして一つ前の駅で乗客は私と残り三人になった。
そのまま揺られているとアナウンスが響く。
『次は月黒(つぐろ)稲荷神社前、月黒稲荷神社前です。降り口は左側です』
そろそろだ。
私は気合を入れるようにぐっと拳を握る。
別に大学を辞めたわけではない。
ただ、休暇に来ただけ。
心の中で言い聞かせていると、電車が止まった。
早いな、もう着いたのか。
私は大きな荷物を持って電車を降りた。
* * *
バスに乗り、旅館の近くで降りる。
もうここはすっかり田舎だ。
雑誌に載っているような流行最先端の服を着ている人や、仕事仕事と急いでいる人はいない。
のどかで平凡な田舎だ。
しばらく歩いていると私の家、旅館『環』が見えてきた。
紫柄県のホテルのように最先端の電子機器やシャンデリアなどないけれど、周りの景色と、和やかな雰囲気はどこの宿泊施設にも負けないと思う。
私は旅館の裏口、家族が利用する玄関へと歩く。
チャイムを鳴らして数秒待つと……、
「どちら様〜? って祭じゃない〜」
お母さんが出てきた。
天然なところは変わってないのか、何故か判子を持っている。
宅配便と勘違いしたのだろうか?
私の母、不知火 梢(しらぬい こずえ)は旅館『環』の女将でもある。
お母さんは驚くほどおっちょこちょいだ。
ただ、その雰囲気が和むと常連の人達には人気なのだけど。
「お母さん、ただいま」
こうやってお母さんの顔を見て話すのはいつぶりだろう。
実際は半年も経ってないけれど。
「おかえり〜。丁度良かったわ〜」
ということは今、たくさんお客様がいらっしゃっているのだろうか。
忙しい日はお母さんに頼まれてたまに手伝っていた。
「お客さん、最近来なくて大変だったのよ〜。祭が来たなら大丈夫ね〜」
しかしお母さんの言葉は私が予想していたのと逆だった。
お客さんいないなら私が手伝う必要ないんじゃ……?
「大女将〜。祭が帰ってきましたよ〜」
疑問に思っている間にお母さんは旅館の方に行ってしまった。
いいのだろうか、判子を持ったままだけど。
「本当ですか?」
「ええ。玄関にいますよ〜」
そう思っているとお母さんとは正反対の厳しい声が聞こえた。
おばあちゃんも変わってなさそうだなあ……。
不知火 撫子(しらぬい なでしこ)。お母さんの血のつながっているお母さん、つまり私のおばあちゃん。
実質、おばあちゃんのおかげでこの旅館の清潔さが保たれていると思う。
お母さんが人を癒すならおばあちゃんは気持ちよく使える場を提供している。
「祭、おかえりなさい」
珍しい。
いつも旅館の時は“大女将”、家のときは“祖母(もしくは母)”としての顔を使い分けているのに今は“大女将”の顔のままだ。
「少し話があります。……ここで話すのは長くなるので止めにしましょう。畳に来て下さい」
そして隣にいたお母さんに「梢、祭にお茶を出して」といい、おばあちゃんは畳の部屋に向かった。
私も荷物を元々自分の部屋だったところに置くと畳の部屋に向かう。
* * *
お母さんが淹れてくれたお茶を飲む。
夏だが、周りは涼しいので温かいお茶でも美味しく飲める。
「祭にお願いがあります」
一口お茶を飲んでからおばあちゃんが口を開く。
「何ですか?」
おばあちゃんの“大女将”モードに合わせて私も“従業員”モードに変わる。
「あなたには紅葉のご機嫌取りをしてほしいのです」
もみじ?
そんな子、知り合いにいたのか。
思い出そうとするが全く思い出せない。
「紅葉は人間ではありません」
「まさか幽霊とか……ではありませんよね」
おばあちゃんの眉根に皺がよってしまった。
「まあ、そこまで外れていませんが。紅葉は、座敷童子です」
そっか。
座敷童子か。
って、え?
「だから座敷童子なんです」
二回言われなくても理解した。
うん、そう、座敷童子か……。
「って、座敷童子!?」
遠くで何かが割れる音がした。
多分お母さんがびっくりしてお皿をひっくり返したのだろう。
…………。
「驚いてしまうのは分かりますが、彼女のご機嫌をとらないとこの旅館も潰れてしまうのです」
よく分からないけど確かに今日の旅館は活気が少ない。
ということはおばあちゃんの言っていることは本当だろう。
大体、おばあちゃんが冗談を言うことは今まで一回も聞いたことがない。
「分かった、やるよ」
大変そうだし、継ぐ気はないがだからといって見捨てたいとも思わない。
「ただ、私に出来る範囲でだけど」
「ありがとうございます。……紅葉、この子が私の孫の祭です」
おばあちゃんはそうすると押入れの方に向かって呼びかけた。
「よろしくなのじゃ! 祭」
そうして出てきたのは、赤い着物を着た10歳くらいの女の子だった。
* * *
少ししか妖怪出せなくてすみません……。
あと少し登場人物修正しました。
祭とつるべ落としのところです。
祭のところは結構変わってしまったのでもしよければもう一度目を通してください。