コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- Re: 旅館『環』においでませ! ( No.5 )
- 日時: 2015/11/08 16:15
- 名前: 夕陽 (ID: rBo/LDwv)
妖怪達との出会い
「あ、えっとよろしくお願いします……?」
いきなりのことに戸惑い、語尾をあげて返事をする。
その反応がおかしかったようで座敷童子は声をあげて笑った。
「我の名は紅葉。呼び捨てで構わんぞ」
「じゃあ、紅葉。よろしくね」
彼女の名は紅葉というらしい。
それを覚えたところで紅葉は私のパーカーの袖を引っ張った。
「とりあえず、祭! 百人一首をしようではないか!」
「え?」
「百人一首を知らないのか?」
「知ってるけど……」
なんで急に? と首をひねる。
「その顔は何で急にカルタをやるのか、疑問に思ってるのじゃな。答えは一つ! 我は今、百人一首をやりたいのじゃ!」
目を輝かせて紅葉は言う。
でも坊主めくりならまだしも、百人一首だと2人じゃ出来ないような……。
おばあちゃんもお母さんも仕事に戻っちゃったし。
しかし、それも予測済みだったようで紅葉は私の手を引っ張りながら言った。
「もう、仲間も集まっているのじゃ! 早く行くぞ!」
「え? ちょ、ちょっと待って!」
急いでスニーカーに足をつっこみ、紅葉の後を追った。
* * *
「皆! 祭を連れて来たぞ!」
紅葉に連れてこられたのは近くの森の中。
そこには、人が三人と——、
「か、顔が落ちてるっ」
私は大きい顔をついつい凝視してしまった。
私の身長の軽く倍はありそうな顔。
髭が生えているので、恐らく人間で言うと男に近いだろう。
「失礼ね、私はただの顔じゃないわよ。つるって言うの」
出て来た言葉に思わず絶句してしまう。
だって男の声で女の子の言葉を使ってる……。
これは俗に言うオカマ……?
「祭の考えていることは多分半分くらい正しいと思うのじゃ」
紅葉は苦笑いで言った。
「よ、よろしくお願いします。つるさん」
「よろしくねえ、祭ちゃん」
私よりはるかに高い位置にある目とあわせて言う。
「では次の人なのじゃ!」
紅葉がそういうと三人は顔を見合わせた後、一人が前に出て来た。
「こんにちは、祭ちゃん。天狐の稲荷です。占いが得意だから、何かあったら頼ってね」
20代くらいの男の人で、人当たりの良さそうな笑みを浮かべている。
年があまり変わらないはずなのになぜか“お兄さん”という雰囲気を持つ人だった。
「ちなみに祭、稲荷は見た目は20代じゃが、実際年齢は三桁はゆうに超えているぞ。あと、元の姿は狐じゃから狐になることも出来るのじゃ!」
だから年上みたいに見えるのかな?
「よろしくお願いします、稲荷さん」
ペコリと頭を下げる。
「次は十六夜殿と雪、どちらが先に挨拶するのじゃ?」
紅葉は残った二人に視線を移す。
そうするといかにもか弱そうな女の子が私を恐れるように稲荷さんの後ろに隠れてしまったので、もう一人の30代ほどの男性がこちらに向き合う。
「十六夜だ」
一言吐き捨てるように言って視線をそらされる。
「十六夜殿は貧乏神でとってもかっこいいのじゃ! 我も十六夜殿みたくなりたいのじゃ! ちなみに一緒に旅館にいるのじゃよ」
紅葉は補足で説明をしてくれた。
なるほど、貧乏神か。
そして紅葉と一緒に私の旅館にいるってことは……、
「え? じゃあ今旅館が危機的な状況なのこいつのせい!?」
初対面にもかかわらず“こいつ”呼ばわりでも許してほしい。
だってそうだとしたら私がわざわざ百人一首する必要ないよね?
「ああ? 俺が来たから旅館つぶれるとか本気で思ってるのか? これだから最近の人間は」
つまらなそうな不機嫌な表情で十六夜が言った。
「俺ごときで潰れる旅館なら元々そこまで儲けてなかったんだよ」
その言葉にカッとなって言い返す。
「そんな言い方ないでしょ! おばあちゃんとお母さんはがんばって旅館を潰さないようにがんばってきたんだから!」
子供っぽいとは分かっていても、やっぱり身内の努力を否定されるのは気持ちいいものではない。
「まあまあ、落ち着いて。祭ちゃん」
「十六夜ちゃんはいつもこんな感じなのよ。困ったものよねえ」
不穏な空気を察したのか稲荷さんとつるべ落としさんが間に割ってはいる。
流石に私もいきなり旅館が危機的状況になったのを人のせいにしたのは悪かった。
「ごめんなさい、十六夜……さん」
「…………」
反応はないが、きっとこういう性格なのだろう。
とりあえず一段落したので最後の女の子に視線を向ける。
「あ、えっと、その……」
私の顔と地面の間を視線が行ったりきたりしている。
やがて、意を決したように私を見て、
「ゆ、雪です。あ、えっと、迷惑かけるかもしれませんがよろしくお願いいたしますっ」
それだけ言ってまた稲荷さんの後ろに隠れてしまった。
「雪ちゃんは雪女なんだ。雪の日ならたくさん話せるけど今日は降ってないから無理みたい」
「雪は雪の日に限って乱暴になるのじゃ……」
稲荷さんと紅葉が軽く補足説明をしてくれる。
まあ夏だし雪降ってたら異常気象だな……。
「雪ちゃん、よろしくね」
見た目が16歳位なのとか弱い雰囲気からか“ちゃん”付けで呼んでしまう。
「では、百人一首の始まりなのだ!」
紅葉は嬉しそうに叫んだ。
そんな紅葉はきっと十六夜の嫌そうな顔は見えてなかったのだろう。