コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- Re: ◆◆小黒前子に告白されまして ( No.2 )
- 日時: 2015/10/24 09:12
- 名前: OL ◆1sqNTzxD0c (ID: WoqS4kcI)
1話 依頼恋愛
「みどりが、田中を、ねぇ……」
「なんだよ、小黒。その疑わしい目は」
「疑ってはいないわよ」
そう、別になにも疑っているわけじゃない。
私は「みどり」についても「田中」についても信用していない。だから、北山の持ちかけてきたその話を安易に受け止めることができないだけだ。
この風浦(かざうら)中学校に転入してきてからまだ3日しか経っていないのに、偉そうに足を組んで椅子の背に身体を放っている北山の視線が、私の胸元に固定された。慣れっこだった。胸が大きいせいで、男子からいやらしい目で見られることは。
咳払いを1つだけ落とし、買いたての暖かい紅茶を飲んだ。
しんとした冷たい風が廊下から入り込むと、気分もリセットされる。北山も私につられたのか肩をすくめて、机の上に置かれた一冊のノートに視線を落としていた。
今回私が空白だらけのノートに纏めた、北山からの「依頼」は、実に子供じみたものだった。そしてその対策も、稚拙そのもので。
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依頼:滝川みどりの恋を諦めさせ、自分に振り向いてもらいたい。
【北山による聞き取り情報】
転校初日、依頼者の北山は滝川みどりという女の隣の席になった。
みどりは社交的で誰にでも優しい、典型的なクラスの人気者。そんなみどりに北山は転校初日で一目惚れをした。
定かではないが、みどりが田中という男に恋をしているという風のうわさを小耳に挟んだので、不安になって小黒相談所へ今回訪れた。
【作戦の要望】
小黒から田中へ告白をして恋人同士になることで、みどりの恋を諦めさせたい。
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「私は基本的に依頼者の頼みは断らないことにしているのだけど、これ、うまくいく確率相当低いと思うわ。私が田中に告白して、OKしてもらえるかも分からないじゃない」
依頼人のことにしか興味を持たない性格上、私は田中という男のことは全く知らない。私が告白をしたところで振られてしまえば意味がない。
だいたい、田中なんて人はこの学校にたくさんいすぎて、どの田中のことを言っているのかわからない。
それに私と田中が恋人同士になって、みどりの恋が破れたとしても、みどりが北山に振り向く保証なんてない。第一印象で、北山は悪いやつではなさそうと感じたけれど、はっきりいって彼のようなこの手のタイプ——チャラ男系の人とは付き合いたくないと思う。これは私の主観だが。
ノートを何度見返しても、うまくいきそうもない、と、眉を潜める私。
そしてその顔をみた北山が、私の活動拠点であるこの狭い第2特活室に、軽いため息をこぼしてきた。
「小黒は自分で気づいてねえかもしれないけど、お前だって相当レベル高いぞ。こんな美人で胸のでかい女に告られて断る男なんていないっての。
それだからな、うまくやってくれよ。将来の俺とみどりの甘くて甘い生活のためにさ」
「それじゃあ最後に、これだけはっきりさせて。田中って男の本名は?」
「田中、タ……なんとかだった気がする……悪い、わかんねえや、俺も転校してきてまだ3日だから」
田中、タ……。
——田中タケル!
脳裏に名前が浮かんだころには、北山はさっさと帰る支度を始めていた。
今度デートしようぜ、なんて挨拶がわりに頬を撫でられ、声にならない声をあげた私をからかうように彼は笑っていた。
吹奏楽部の練習の音が届く中、窓の外はさらさらと霙が降り注ぎはじめていた。