コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- Re: 堕天のナイフ【どっちかと聞かれても。】 ( No.23 )
- 日時: 2015/11/07 21:01
- 名前: ゴマなし ◆mn1xAu8J/2 (ID: j553wc0m)
【爽やか系イケメンのお誘い】
走る、という行為を黒崎晴翔は気に入っていた。『仕事』の都合上走る機会が多いのも一つの理由だが、子供の時にやる事が走ることぐらいしかなかった事が恐らく一番の要因だ。
だから陸上部に所属して、学生らしく部活動を通して走る事が出来るのは俺にとっては都合の良い事だ。
「…はっ、はっ…はぁ……はぁ…」
学園にあるグラウンドで30mのシャトルラン×10を終えた俺は、今日の練習メニューを終えた。10キロランニング、5キロタイムラン、そして最後のシャトルラン。息苦しくて止まりたい気持ちをグッと抑えて直ぐには立ち止まらず、ゆっくりと歩きながら息を整える。
「……はぁ……ふぅ…」
息がようやく整ってくる。まだ心臓はドクドク鳴っているが、苦しいわけではない。むしろ解放感さえある。
「お疲れ様、黒崎くんっ」
先に練習メニューを終えてストレッチも終えた白雪が可愛らしい笑顔で俺にタオルと飲み物を渡してくる。
「…ありがとう白雪」
「見てたよ。今日調子良かったんじゃない?」
「そうか? そう見えたのなら、それは恐らくただシャトルランのコツを掴んだだけだろう」
本当にそうだろうなと思う。特に調子が良いというわけではない。一応ある一定の調子は維持できるように訓練はしているが、その分好調である日はあまりない。あくまでも調子は一定なのだ。
「コツって走り方の事?」
「ああ、まぁ端的に言えば白雪の走り方を真似ただけだ」
「えっ、そうなの?」
「白雪のシャトルランでの走り方は一つの理想の走りだ。真似しない理由がない」
「そ…そうなんだ…」
白雪は恥ずかしそうに髪をいじる仕草をする。本人は自覚していないが、白雪は急停止と急発進の切り返しが早い。その理由が身体の体重のかけ方と足の力の入れ方、身体の運び方にある。一つ一つの動作に細かな点があるため、俺も白雪の走りを身につけるのに結局一ヶ月かかってしまった。
「おかげで良い経験を学ぶ事が出来た。ありがとな白雪」
「お…お礼なんていいよぉ。私何もしてないもん…」
「こうしてタオルとドリンクまで持ってきてくれるんだ。将来は気の利いた奥さんになれるだろう」
「お…おくしゃん!?!?」
「図々しいぞっ、黒崎晴翔っ!!!」
ボンっと即座に耳まで真っ赤にする白雪と俺に割って話に入ってきたのは、同じ陸上部の同級生の仙道充せんどう みつるだ。陸上部随一の爽やか系イケメンと噂されてるらしい。茶髪の短髪に整った顔立ちは確かに女生徒からの人気も頷ける。
しかし当の本人は爽やか系というよりかはどちらかというと自意識過剰のキザな感じがする、というのが俺の正直な評価だ。
「白雪さんに遠回しに告白か?? 身の程を弁えろっ!」
「こ…告白ッッ!?」
「いや、そのつもりは特になかったが」
「ガーン、ないのッッ!?」
「ふざけるなっ、さてはそうやってその気があるように振舞って、白雪さんを弄ぼうという魂胆か!?」
「その発想はなかった。良い案だな。じゃあ弄ぶとしよう」
「えええええっ!?!?」
「そうはさせんっ!! 白雪さんを弄ぶのは僕だっ!」
「私って今どんな扱いなの!? なんで弄ばれてるの?! 」
「…そうか、分かった。仙道、お前の気迫には負けた。俺は引き下がるとしよう。思う存分白雪を弄んであげてくれ」
「えっ…あの……黒崎…くん…??」
「ほぉ、君にしては良い判断だ。僕と君では男としての品格が違うと気づいたみたいだね」
「ああ、全くだ。俺ではお前に何一つ勝てない。だから白雪を好きにするといい。俺はストレッチをしてくる」
「黒崎くん、今完全に面倒事を私に押し付けてるよね、ねぇちょっと…」
白雪が何か言ってきたような気がするが特に気にせず俺は座ってストレッチを始めた。
「ハハハ、ごゆっくり。じゃあ白雪さん…」
「え…あっ、あの…ね仙道くん、私ストレッチ終わったし着替えてくるね?? 」
「アハハ、そんなの後でいいよ。それよりも向こうのベンチでお茶をしないかい? ゆっくり君と話したいな…?」
「いや…あの…えへへ、ほら、今日は汗掻いちゃったし…」
「今の君が魅力的だよ」
「ふえぇ!? ……ま…待って…仙道くん疲れたでしょ?? 早くあがろう? ね?」
「白雪さんを見てたら元気が出てきたよ」
「あの……ちょっと…待って…ね…??」
ちらっと俺の方を見る白雪。だが俺はぼうっと空を見上げていたので気がつかなかった、フリをした。
「さっ、行こっか。ベンチはこっちだよ」
「…えっと…黒崎くーん…??」
「空が綺麗だなー。。」
「棒読みだよねっ!? 絶対聞こえてるよね!?」
「ほら、白雪さん。こっちだよ、(ニコニコ)」
「ちょっと待って仙道くんっ、……黒崎くん助けてほしいなー(チラッ)」
「白雪、また明日学校でな」
「黒崎くんのバカああああ!!!!」
爽やか系イケメンこと仙道に連れて行かれる白雪の悲鳴を後ろに聞きながら、俺は静かになったグラウンドで再び空を見上げた。ちなみにこうして白雪が仙道にお茶を誘われるのは今に始まった事じゃない。よほど仙道は白雪を気に入っているようだ。良かったな白雪。
「…これが青春か。」