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コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- Re: 心象フルクトゥアト【短編集】 ( No.1 )
- 日時: 2016/10/08 17:16
- 名前: 朔良 ◆oqxZavNTdI (ID: raanz7.S)
【語り唄 (夏の影)】
夜空に浮かぶ震える泡沫模様
世界で一番綺麗な花だと思ったの
賑やかな笑い声 着飾る恋人たち
そんなの関係無いくらい
貴方の手のぬくもり愛しかった
ひゅるりひゅるりら 夏花火
短夜に咲く大輪の花
薫る風 また思い出す
貴方とのキス 触れた体温
あの日の貴方の言葉は永久に
「綺麗……」
彼女は、艶やかな紫の花が乱れる浴衣を身に付け、夜空を見上げている。
「……そうだな」
曖昧な返事だったからか、彼女は、隣の彼を見て、頬を膨らませた。
「ちゃんと見てた?」
「見てた……けど。花火よりもお前が綺麗だっ言ったら、怒る? それとも、喜ぶ?」
彼がふっと笑いながら彼女の目を見ると、彼女は顔を伏せた。暗闇でよく見えないが、彼女の顔の火照りを彼ははっきりと感じた。
「……バカ」
「怒ってる?」
「……」
「ごめん、もう言わないから」
「お、こってない」
彼は笑って、彼女の指と丁寧に隙間がないように重ね合わせる。そして、彼女の唇にそっとキスをした。
「……っ! ここ、どこだと思ってるの!」
「河川敷」
「ま、真面目に答えないでよ!」
「大丈夫だって。誰も見てない。みんな花火に夢中だ」
もう……と呟きながら彼女はもう一度空を見上げた。
「……ねえ、また来年も見に来ようね」
「ああ」
彼女に似合う紫の花と同じ色の花火を見上げながら、
「ーー愛してるよ」
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