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Re: 樹海のエアガール【まあまあ長編】 ( No.8 )
日時: 2015/11/13 00:08
名前: シロマルJr. (ID: TM1He8zT)

3.疑惑

キーン コーン カーン コーン・・・
ふう、やっと終わったか。1時間目の授業のことだ。授業が終わって、トイレに行こうと思って一階に向かった。この学校は、トイレが高校と中学の校舎のほぼ中間にある。いちいち移動しなきゃならないなんて、本当にメンドくさい。
脱離で上履きを履き替え、トイレに行こうとした時、
「・・・姉さん」
ふと後ろから声が聞こえた。私の弟の勇樹だ。勇樹は両腕に何か冊子のようなものを抱えていた。
「・・・どうしたの?」
「これ、こないだ、借りてた、教科書。ありがと・・・」
そう言われ、私は勇樹の持ってた数学の教科書を受け取った。今の場面を見てわかる通り、勇樹は控えめな性格で、自分の意見も上手く伝えられない。そんな弟に、私は呆れるばかりだった。自称空気の私にも、自分の意見くらい普通に言える。あと彼は、何かと霊感が強いらしい。だから何だって話だと思うけど。
そして勇樹はくるりと踵を返し、黙って私に背を向けて歩いていった。
「・・・今の誰なの?」
ポケットから声が聞こえる。そうだった、今はこのソラマナがいたんだった。
「勇樹。私の弟だけど」
「ふーん、なんか気弱そうだねー。自分の意見もはっきり言えなさそうだし」
初対面の弟に対してそんなことを言う。お前何様なの?まぁ事実ではあるけど。スマホの時刻は午前9時38分。2時間目開始の2分前だ。
ーー私も戻ろう。
私は校舎にダッシュで戻っていった。・・・あ、トイレ行ってない・・・。

その後も授業は続き、3時間目の授業が終わった。私は係の仕事で授業の荷物を職員室に運ぶ最中だった。
「おお未空、大変そうだな。俺が持ってってやるよ!」
出た、バカだ。もちろん茂流のことである。茂流は私の持ってた荷物を強引に奪い、
「こんなもん、俺が一瞬で片付けてやるぜ!」
ちょっとふ菓子でもくわえて黙っててくれないだろうか?
なんか壊しでもしたら私が責任を取るハメになるじゃん。それは絶対にイヤだ。
茂流は勢いよく廊下に飛び出した。そのまま「うぉぉぉぉぉぉぉ!!」などと雄叫びをあげながら廊下を駆け抜けていく。やめてもらえないだろうか。目立ってしょうがない。というか、こないだの怯えは治ったのだろうか?でも楽だし、ちょっとコイツに任せてみるか。

そして驚くことに、特に何も問題なく職員室に到着。茂流が先生に荷物を手渡す。
「おお星、未空の手伝いか?感心するな。・・・何が目当てだ?」
「やだなぁ先生、何も目当てじゃないっッスよ。頼まれたからやっただけだし」
頼んでませんけど?あんたが勝手に奪い取ったんでしょーが。
こんなお調子者を一瞬でも役に立つと思った自分が恥ずかしい。私は1人、職員室を出ていった。
「あれ?なんか疲れてるよね?どうかしたの?」
ソラマナが呑気に言う。分かってるくせに何を偉そうな。塩茹でにして食ってやろうか?出来ることなら、今すぐ握りつぶしてやってもいいんだぞ?
私は苛立ちながら、教室に戻ってきた。

さて、こうして今日も1日が終わったけど、今日は何か疲れたなぁ。何でだろう?その原因のあいつは、変わらず仲間とはしゃぎ合っている。これはもうどう思っても無駄だな。そう思い、私は通学路を歩いてた。
やがて、広い広場の前に出た。緑のたくさんある、自然豊かな場所だ。
すると、少し遠くに勇樹の姿が見えた。勇樹だけではない。その周りに4.5人集まっている。
珍しいな。あいつがグループの中心になってるなんて、珍しい虫でも見つけたんだろうか?もう少し近くで見てみよう。
ーー!?
私は集団に2メートルくらい近づいた。やはり勇樹で間違いないようだ。
だが、驚いたのは、そこに私の知っている人物がいたことだ。その人物というのは・・・
輪になって勇樹を取り囲んでいる。中心となっているのは175センチ程度の身長、すらっとした体型、整った顔立ち、メガネを外してはいたが、その見た目は完全に澪也のものだった。さらに、よく見ると茂流の姿も見えた。
「お前、あの事は誰にも言ってねぇだろうな?」勇樹は力無く首を縦に振る。
ーーあ、これ完全に関わっちゃマズいパターンのやつだ。あの事とは何の事だろう?
ここでふと私は、あの暴行事件の事を思い出した。森山からその話を聞いた時、いつもうるさい茂流がおとなしかった。その時の彼の表情は、妙にバツが悪そうで、何か隠してたようにも見えた。
ーーなるほど、そういう事か。
私はあの事件の黒幕はもしかしたら、いや、もしかしなくても澪也達じゃないかと彼に疑惑を抱いていた。だが、まだ証拠がないので、彼が犯人という決定的な証拠を見つけなければ。メンドくさいなんて言ってられない。放っておいたら、また別の誰かが犠牲になるかもしれない。
私は、気付いた時には全力ダッシュで広場を離れていた。幸い澪也は私に気づいていない様子だ。空気はこういう時に役に立つ。
「ねえねえ、なんでそんなに急いでんの?もーしかーして・・
「うるさい、静かにしてて!!」
本当に空気の読めないやつめ。あんたはポケットに入ってるだけだから楽だろうけど、ダッシュしてる私は大変なんだよ、ちょっと黙ってろ!
すると、急に強い罪悪感に襲われた。
ーー今あいつらにいじめられてんのは、私の弟なんだよ!?かけがえのない家族なんだよ!?目立ちたくないからって、見ず知らずの他人みたいに見捨てて自分だけ逃げていいの?
確かにそうだ。今戻らないと、一生後悔するかもしれない。でも、私は巻き込まれたくない。
その思いの方が強く、私は止まることなく走っていった。
私はサイテーだ。裏切り者だ。
激しい罪悪感に襲われながら、私は家に戻ってきてしまった・・・。