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Re: 樹海のエアガール【コメント募集中!】 ( No.28 )
日時: 2015/12/01 14:55
名前: シロマルJr. (ID: TM1He8zT)

12.樹海

綾も自分の世界に帰り、こうして忌々しい事件は幕を降ろしたーーかと思われたが、事態は予想外の展開になっていた。
ーー全てじゃないよ。まだ私の事が残ってる。
ソラマナは確かにそう言ったんだ。まるで私の思ってた事が予め分かってたように・・・。
「どういう事だよ!?」
茂流がまっすぐにソラマナの方を見て言った。みんなも同じように彼女の方を見ていた。
「だーかーらー、私の事が残ってるって言ったの。秘密だよ、秘密」
こいつは何を言ってるんだろうか?自分の秘密とやらを簡単に言っていいんだろうか?何か知らんが心配になってきたんだけど。
ーーふと、私の頭にいくつか心当たりが浮かんだ気がした。ソラマナは度々私の心を読んでいたこと、いつも私を厄介事に巻き込もうとしたこと、綾と何か進展があったような関係だったこと、考えてみれば、思い当たる節はたくさんあった。
本当にこいつは何者なんだ?何で私の心を読めるんだろうか?
「そうだね、まずは何で私がマナミの心を読めるのかについてね」
・・ほら、また私の心を読んでる。どうしてこんなことが可能なんだろうか?
ーーすると突然、ソラマナを光が包んだ。眩しい光が、夜の空を明るく照らし出す。
「な・・・何なんだよ、これ・・」
澪也があっけにとられた表情をしていた。見ると、みんな同じような表情を浮かべていた。ほぼ無意識だと思うけど。
そして、ソラマナを包んでいた光が消えた。目の前には、何やら見覚えのある人物のシルエットが見えていた。女性っぽいが、黒髪が腰まで伸びているため、綾が戻ってきたとは考えにくい。ポニーテールの凛花とも違うものだった。
だんだんシルエットがハッキリしてきた。私は、その姿を見て軽い戦慄を覚えた。長い黒髪、木の形の髪飾り、深緑の長袖ワンピース、いまいちパッとしない容姿、私が誰よりも理解しているであろう人物だった。
ーー私?
その姿は私、未空マナミにそっくりーーいや、そのものだった。性格、趣味まで同じなのではないか?そう思うほどだった。
「これで分かった?私がマナミの心が読める理由が。私、ソラマメって言ったけど、実は違うんだ。私、未来から来た樹海の精霊だったみたい。だから、今現在のマナミの考えてることは全てお見通しってこと」
目の前のソラマナ、いや、未空マナミが淡々としゃべっている。いやちょっと待て。未来から来た?樹海の精霊?私の心が読めても、あんたの話が全然読めないんだけど。
「で、私が未来でマナミ、あんたの存在とか性格を知って、実際にあんたのいた場所に落ちていった、自分でね。それがあの日の出来事だよ。覚えてる?」
あの日?ああ、私の頭にソラマナが落ちてきた日のことかな?っていうか、こっちの意見を聞いてもらえる?心読めてるんならちゃんと答えてよ。
「ちょっと待てよ、どうも信用できねぇ。未来から来た?ふざけてんじゃねーぞ。精霊ってのも嘘っぽいじゃねえか。一体どうやって現代に、未空のいた場所に落ちたんだよ?」
そう言ったのは澪也だった。完全に取り乱している模様。しかし目の前の未空は全く動じずに即答した。
「なんでだろうね?こればかりは企業秘密だから教えられないよ。まぁヒントを出すんなら時空と空間をどうこうってやつだよ」
いやいや、全然納得しないんですけども。というか、何だよ企業秘密って。どこか会社にでも勤めてるわけ?
ーー考える前に、私は未空に話しかけていた。
「・・・あなたの目的は何だったの?」
私が一番気になっていた疑問だった。一体何があって私を色んな事に巻き込んでいったのだろうか?
私の疑問に、未空マナミが答えた。
「決まってるじゃんか。マナミ、あんたの理想を叶えるためだよ!もうその理想は叶ったから、私ももうちょっとしたら帰ることにするよ」
ーー私の理想?
誰とも関わらず、空気のような存在の事だろうか?でも全然かなってないじゃんか。今こうして、もろメンドくさいことに巻き込まれてるし。空気になる以前に人と関わってんじゃん。
「・・・何で?私の理想、叶ってないけど」
「空気みたいな存在になるってこと?」
想定していた通りの言葉が飛んできた。「そうだけど」と私が即答すると、
「何言ってんの?あんたの“本当の理想”は、そんなことじゃないでしょ。あんたの“本当の理想”、私が当ててあげようか?」
ーーこいつは何をおかしな事を言ってるんだろうか?本当の理想?空気みたいな存在になる事以外何もないけど。
「・・・ホントは、もっとみんなと仲良くして、本気で向かい合いたかったんでしょ?」
・・・一番理想とかけ離れてるんだけど。みんなと仲良くしたい?冗談じゃない。何があってそんなメンドくさいことしなきゃならないんだ。
「は!?別にそんな事思ってないし!そんなの冗談じゃない!」
私としたことが、少々ムキになって答えてしまった。
「嘘だ、さっきまで綾と話してたじゃんか。面倒だと決めつけて、向き合わなかっただけ、綾が羨ましいって。だからその願い、今さっき叶えたよ?だって今、マナミはみんなと一緒にいて向き合ってたじゃん!」
未空にそんな事を言われた。そんな事思ってないのに、なぜか核心を突かれた気がして、何だか心がザワザワと落ち着かなかった。
「そうなの?マナミちゃん」と凛花。
「いやいや、確かに言ってたかもしれないけど、それとこれとは話が別で・・・」と私。
「別じゃないと思うよ。今マナミちゃん、綾ちゃんと凄く楽しそうに会話してたじゃん!」
凛花に言われて、私は完全に黙り込んでしまった。理由は分かっている。
ーー本当は、今までずっとそう思ってたのを隠してたからだ。
今までのクラスメートは、凛花以外私に見向きもしてくれなかった。係などの用事で話しかけてきたやつはたくさんいたけども。
でも、それと同じくらい、私もクラスメートの事を見ていなかった。未空ソラマナの言う通り、私は本当はみんなと仲良くしたかったのかもしれない。でも、傷つく事を恐れていたのか、なかなかみんなと向き合えなかった。それで諦めて、空気のような存在を理想とするようになったんだ。よく分からないが、凛花もここまで言うんなら、多分そうなんだろう。
「・・・ありがとう、ソラマナ。あなたのおかげで、少しだけ気がラクになったよ」
「今ならまだ遅くないと思うよ」
私が本当の気持ちを打ち明け、もう一人の私がそれを認めた。勇樹も、周りのみんなも、私を見て暖かい表情を浮かべていた。

こうして、ソラマナは元のソラマメの姿に戻り、未来に帰る事にしたようだ。綾の時と同じように、虹色に輝く膜が地面に出現し、彼女はそこにピョンピョンと跳ねながら向かっていく。
ソラマナは、くるりとこちらに向きを変えこう言った。
「じゃね、みんな気をつけて!」と。
だからこの場面で気をつけてはおかしいんだってば。綾とデジャブじゃん。二人とも自分の世界に帰ったら、真っ先に国語を勉強するのをオススメするよ。
これで終わりかと思ったが、
「マナミ!」
急に私に向かって話しかけてきた。なんだろうかと耳を傾けると、
「短い間だったけど、ホントに楽しかったよ!色々ありがとう、頑張ってね!勇樹とも仲良くするんだよー!」
最後にこう言った。そういえば、これが最後のソラマナとの会話なんだ・・・。
そして、ソラマナの姿が膜の中に完全に見えなくなった。その瞬間、あたりに緑がたくさん、まさに樹海のようにバーっと広がった。夜のはずなのに、あたりは一面明るかった。この小説のタイトルの意味を、たった今理解した人も少なくないはず。
ーー何も言えなかった。最後の会話だったのに、一言も。
そして、その思いを最後に、私の意識は遥か彼方に消えていった。