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Re: 樹海のエアガール【コメント募集中!】 ( No.29 )
日時: 2015/12/02 00:21
名前: シロマルJr. (ID: TM1He8zT)

13.夢か現実か

ーー気がつくと私達は、緑広場の噴水の周りに寝転がっていた。辺りはもうすっかり太陽の光が照っていた。
私はガバッと起き上がり、いつもの癖で真っ先にスマホをチェックする。時刻は午前9時25分、日にちは8月8日の日曜日になっていた。周りの様子を確認するが、特に異常は見られない。どうやら夢を見ていたらしい。しかし夢の中の出来事は、脳裏にしっかりと焼きついている。みんなとっくに起きていた。
「あ、おはようマナミちゃん!」と凛花
「よお未空、いつも早いのに起きんのは遅えんだな。何か意外だぜ」と茂流。
みんながそれぞれの言葉を私に投げかけてくる。なんで私はこんなに囲まれてるんだろうか?
ーーそうだ、ソラマナ!!
夢に出たあいつの事を思い出し、慌ててポケットを確認するが・・・・あいつはいなかった。何で?夢じゃなかったんだろうか?夢じゃないなら、なんであいつはいないんだろう?
ーー何が起きてるんだ?
わけが分からない。私は完全に混乱していた。
「・・・どうしたの?姉さん」
キョロキョロと首を動かしていたのを不審に思われたのか、勇樹が心配そうに声をかけてきた。勇樹から話しかけてくるとは、珍しい。
「・・・いや、みんな同じなの?」
やっとの思いでそれだけ言った。というか、私は何を言っているんだ?
「何が?」
勇樹がキョトンとして聞き返す。まあ、そんな反応をするのも無理はない。
「私、何か変な夢みてたんだ・・・。みんなでここの広場に集まって、そしたらいきなり、死んだはずの綾が出できて、澪也に復讐するなんて言い出して・・・それで私が綾と話して物事が解決して・・それっきり何も分からないんだ。ソラマナもいなくなっちゃったし・・」
「・・夢じゃねえぞ?」
「・・へ?」
澪也に反応され、思わず間抜けな声を出してしまう。いつもと変わらず、メガネをかけた優等生オーラを全面に出している。そういえば、初めて澪也とまともな会話した気がする・・・。というか、夢じゃないってどういうことなの?
私はまだ、澪也の言う事を完全には信じていなかった。
「俺が綾に殺されそうになったことなら、俺自身しっかり身に覚えがあったからさ・・。ソラマナがいなくなったんなら間違いねえよ。俺達、この目でしっかり見たんだからよ。なぁ?」
「そうだよ!俺の目に狂いは無いっっ!!」
そう答えたのは茂流だ。こちらもいつものようなお調子者オーラを、全面に出している。・・・ってことは?
「じゃああんたは、自分が綾ちゃんに殺されるのが分かってたわけなの!?」
「そういうことじゃねえよ。でも・・」
色んな感情・情景が頭の中を駆け巡る。目の前の凛花と澪也の声も、今ではただの雑音のように聞こえてしまっている。
「姉さん?」
勇樹の言葉でハッと我に返る。気がつくと、私は静かに涙を流して泣いていた。
ーー何で?何で泣いてるんだよマナミ!
その自問の答えは、私には分からなかった。何で?ガヤガヤうるさかった奴がようやくいなくなって、せいせいしたはずだ。金輪際会えないと言われても別に問題ないと思ってる。なのに・・・何で?
‘‘何で?‘‘という同じ単語が、頭を駆け巡る。わけが分からない。
ーーもしかして、澪也の言う通り全部現実だったのか?
私の“本当の理想“とやらが叶ったから、ソラマナがいなくなったというのか?そういえば、みんないつもより私に話しかけてくるような・・・。
「・・・おい未空、泣いてんのか?」
私の様子がおかしいことに気づいたのか、茂流が私に声をかける。
「そんなメソメソしてちゃダメだぜ!お前のせっかく可愛い顔が台無しになっちまうだろ?」
ーー何言ってんだこいつは?そんなヘタクソなお世辞が私なんかに通用するわけ・・・。
その思いとは違い、なぜかいつものように呆れ返る気はしなかった。思い出せば、男子に「可愛い」なんて言われたのは、今が初めてだった。まあ、言ったのは茂流だから、本心かどうか分からないけど。
「お前・・・それでナンパしてるつもりかよ・・・」
ほら、また澪也にダメ出し(?)されてるじゃんか。
「な・・そ、そんなんじゃねえよ!俺はただ、未空が泣いてるから元気付けてやろうと思って・・」
何必死になってんだよ。その様子がおかしくてたまらなかった。それより、泣いてた事みんなに言うのやめてもらえないだろうか?
「まぁ、それは置いといて、俺一つ考えたんだけど、みんな集まってくれよ」
澪也がそう言って、その場の全員がここに集まった。裏があるとはいえさすが学級委員。話の切り替えとリーダーシップはなかなかのものだ。
「・・・あの事ーーあ、昨日の事な。みんな何の事か大体覚えてるよな?あれなんだけど・・」
そこまで言うと、澪也は一瞬言葉を詰まらせた。そんなに言いづらい事なんだろうか?
「・・・この話、俺達だけの秘密にしようぜ?」
ーー何だそんな事か。言葉詰まらせたから、何て事言うのかと警戒しちゃったじゃん。
「いや別に、俺らがやった事が学校に知られるとマズイとかじゃなくて・・、ソラマナとか綾の事もあんじゃん?あいつらの事話したって、誰も信じるとは思えねえし、あいつらのプライドってもんがあると思うんだよ。だから秘密にしようって事」
なるほど、あの行動が読めないコンビの事を考えるとは、成長したな。
「もちろん、勇樹にはひどい事したって思ってる。だから、俺らは今ここで勇樹に謝りたいと思う」
そう言って、澪也は勇樹の方に向き直った。そして「お前らも来い」と後ろにいた茂流、A組の亮、健人、正志に呼びかけ、四人も澪也の横に並んだ。っていうか後ろのA組の連中、とうとう一言も喋らなかったよ。セリフの一つ与えてやんなよ可哀想に。
「勇樹・・・俺らはずっとお前にひどい事をしてきた。あの日の事をお前に見られて、バラされんのが怖かったんだ。樹海高校一年B組の学級委員が殺したようなものだって。許してくれなんて言えないけど、本当に悪かったよ。ごめん」
そして、澪也が勇樹に頭を下げた。その後に茂流、A組の連中も謝った。とうとう名前も書かれなくなっちゃったよ。名前くらい書いてあげなよお粗末な。
「え!?いや、もう良いよ。もう全部終わった話じゃん・・。頭あげてよ」
勇樹が困った表情を見せる。私はこの光景がたまらなく面白かった。性格悪いかもしれないけど、ついに勇樹がこいつらを見下す日が来たんだなって。
「勇樹・・・本当に許してくれるのか?」
まさか、こんなあっさりと許してくれるとは思ってなかったらしく、茂流が驚きを隠しきれないようにして言う。
「勇樹君は心が広いのよ。これからしっかりと勇樹君を見習うように!分かった?」
その茂流の後ろで凛花がビシッと、でもどこか嬉しそうに澪也達に指差しした。一応彼女も副学級委員だ。みんなをまとめる能力と言ったらおかしいかもだけど、すごい事だなあ。
「なっ?何で早乙女が偉そうにしてんだよ!?あ、さてはこのスーパーエキサイティングな俺様に嫉妬してるな!悔しかったら捕まえてみろや〜い!」
そう言って、茂流が逃げるようにしてどこかに走り出した。エキサイティングの意味分かってるんだろうか?分かってないな。茂流だもん。
「心配すんな早乙女!俺がとっ捕まえてしばき倒してやる!!」
澪也がそう言って、茂流の後を追いかけた。三人もその後を走って付いていった。最後までセリフなかったなあいつら。
しかし、凛花は彼らには見向きもせず、勇樹の肩に手を置いてこう言った。
「良かったね勇樹君、スッキリして」
「え?あ、うん」
「・・・やめてあげなよ凛花。急だからビックリしてんじゃん」
そう言って私、凛花、勇樹が笑う。私が本当に理想としてた光景は、まさにこのような事だったのかもしれないな・・・。
「本当だよね。みんなが思い思いに、何の諍いも無く心から楽しみ、笑える事ってすごく良い事だと思わない?マナミちゃんの本当の理想って、もしかしてこういう事?」
何か心を見透かされた気がしたが、もう平気だ。だって慣れちゃったんだもん。
すると、茂流が息をぜえぜえ切らしながら、私の前で止まった。ろくに体力もないくせに、調子乗って走りまくってるからだよ。それを追いかけてた澪也一味も戻ってくた。
「まだ余裕だよ!なんてったってスーパーエキサイティングな俺様だからな!」
いや、息ぜえぜえいってるんですが。
茂流がそう言った途端、風が急に強くなった。そしてーーー

ーーバサッ!!

「うわっ!!」
・・・さて、何が起こったでしょうか?答えは、風が強くなると同時に一枚の大きな葉っぱが、茂流の顔にぴったり貼りついたのでーす!
風は勢いを全く緩めなかった。よって、葉っぱは茂流の顔に貼りついたままだ。
「な、何が起きてんだよ!?」
葉っぱに気づかない鈍感な茂流に、その場が爆笑の渦へと変化した。
「あ?何、スーパー何だって!?」
みんな大口開けて、楽しそうに笑っている。私も、笑いをこらえきれず爆笑してしまった。こんなに心から楽しそうに笑ったのは、すごく久しぶりだった。いや、初めてかもしれない。
さて、突然ですが、ここで問題です。
今なら私は、もしも心を読まれても平気です。なぜでしょう?
答えはーー


ーーもしも今これが夢ならば、何があっても絶対覚めて欲しくない。


心の底からそう思うほど、楽しい時間を過ごしていたから。